大気河川が暖冬と極端な高温イベントを引き起こす

大気河川が暖冬と極端な高温イベントを引き起こす

学術的背景

大気河川(Atmospheric Rivers, ARs)は、地球の大気中で水蒸気を集中的に輸送する狭い領域であり、通常は亜熱帯から中高緯度や極地へ大量の水蒸気を運びます。これらの一時的な現象は、全球の水蒸気輸送の大部分を占め、多くの地域の降水や水資源に重要な影響を与えます。水蒸気の輸送に加えて、ARsは熱も輸送しますが、これが全球の地表気温に及ぼす影響はまだ十分に研究されていません。地球温暖化が進む中、極端な気象現象の頻度と強度が増加しており、ARsが気温に及ぼす影響を理解することは、極端な気象現象の予測と対応において重要です。

本論文は、Yale Universityの地球惑星科学科のSerena R. ScholzとJuan M. Loraによって執筆され、2024年12月19日から26日に『Nature』誌に掲載されました。研究の目的は、ARsが全球の地表気温に及ぼす影響、特に暖冬や極端な高温イベントへの寄与を明らかにすることです。

研究のプロセス

データソースとARsの識別

研究では、1980年から2022年までのMERRA-2再解析データを使用し、2メートル気温、地表短波放射、地表長波放射、地表顕熱フラックス、潜熱フラックスなどの変数を含みました。ARsを識別するために、大気河川追跡方法比較プロジェクト(ARTMIP)から提供された7つのグローバルアルゴリズムを採用しました。すべての計算は独立して行われ、最終結果は各アルゴリズムの平均値として算出されました。

気温異常とARsの関係

研究では、ARsの頻度と多くの中緯度地域の平均気温との間に有意な相関があることが明らかになりました。特に冬季において、北半球の冬季では、ARsの頻度と気温の相関係数が北欧で0.6を超え、北米東海岸や北太平洋でも有意な正の相関が見られました。南半球の冬季では、南大洋の大部分で有意な正の相関が確認されました。

ARs期間中の気温異常

ARsイベント中、北米とユーラシア大陸の平均気温異常は約+5°Cで、グリーンランドと南極では+10°Cを超えました。極地地域の気温異常は冬季に特に顕著で、平均+15°Cに達しました。気温異常は昼間と夜間の両方で正の値でしたが、夜間の温暖異常の方が大きいことがわかりました。

地表熱フラックスの変化

ARs期間中、地表熱フラックスに顕著な変化が見られました。雲量の増加により地表短波放射が減少しましたが、長波放射と顕熱フラックスの増加がこれを相殺しました。特に砂漠地帯では、ARsイベントにより平均+50 W m⁻²の異常な長波放射がもたらされました。さらに、ARs期間中、中緯度と極地地域では顕熱フラックスが大気から地表へ輸送され、地表温度の上昇を引き起こしました。

熱と水蒸気の水平輸送

ARsは、大気下層での顕熱と水蒸気の異常な水平輸送と収束に関連しています。研究では、ARs期間中、顕熱の極向き輸送が顕著に増加し、特に北米と南極でその傾向が強く見られました。水蒸気の収束も顕著に増加し、凝結と潜熱放出を引き起こし、地表温度の上昇をさらに促進しました。

ARsと極端な高温イベントの関係

研究では、ARsが極端な高温イベントと密接に関連していることも明らかになりました。北太平洋と北大西洋の嵐の経路上では、70〜80%の極端な時間単位の気温異常がARsイベント中に発生しました。極地地域では、極端な気温異常がARsイベント中に発生する確率は、独立したイベントと比べて10倍以上でした。さらに、ARsは湿潤および複合熱波イベントとも密接に関連しており、特に北米東部と北東アジアでその傾向が顕著でした。

主な結果

  1. ARs頻度と気温の相関:ARsの頻度と中緯度地域の平均気温との間に有意な正の相関があり、特に冬季に顕著でした。
  2. ARs期間中の気温異常:ARsイベント中、北米とユーラシア大陸の平均気温異常は約+5°Cで、極地地域では+10°Cを超えました。
  3. 地表熱フラックスの変化:ARs期間中、地表長波放射と顕熱フラックスが顕著に増加し、地表温度の上昇を引き起こしました。
  4. 熱と水蒸気の水平輸送:ARs期間中、顕熱と水蒸気の極向き輸送と収束が顕著に増加し、地表温度の上昇をさらに促進しました。
  5. ARsと極端な高温イベントの関係:ARsイベントは、極端な時間単位の気温異常や湿潤・複合熱波イベントと密接に関連していました。

結論

研究により、ARsが複数の時間スケールで地表気温に重要な影響を及ぼすことが明らかになりました。ARsは異常な熱と水蒸気の輸送を通じて地表熱フラックスを変化させ、中緯度と極地地域の気温上昇を引き起こします。さらに、ARsが極端な高温イベントと密接に関連していることは、ARsが全球のエネルギー輸送においてこれまで認識されていた以上に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

研究のハイライト

  1. 重要な発見:ARsは水蒸気輸送だけでなく、全球の地表気温、特に中緯度と極地地域に重要な影響を及ぼします。
  2. 方法論の革新:研究では複数のARs識別アルゴリズムを使用し、結果の頑健性を確保しました。
  3. 応用価値:研究結果は、地球温暖化の文脈において、極端な高温イベントの予測能力を向上させるのに役立ちます。

その他の価値ある情報

研究では、ARsが砂塵などの粒子を運ぶ可能性があり、特に夏季に長波放射の捕捉を強化し、危険な高温条件を引き起こす可能性があることも指摘されています。地球温暖化が進むにつれて、ARsはより頻繁かつ強力になり、全球の気温と極端な気象現象にさらなる影響を及ぼす可能性があります。

この研究を通じて、ARsに対する理解が深まり、将来の気候予測と極端な気象現象への対応において重要な科学的基盤が提供されました。