下始新世デルタシーケンスにおける堆積物供給変動の制御(トレンプ盆地、スペイン)
堆積物供給変動が下部始新世デルタ層序に及ぼす影響
学術的背景
地質学的研究において、堆積層序の形成は通常、収容空間(accommodation space)の変化によって制御されると考えられており、堆積物供給(sediment supply)の変化はしばしば軽視されてきました。しかし、堆積物供給の変化は、特に気候変動の文脈において、堆積層序の形成に重要な役割を果たす可能性があります。本研究は、Tremp盆地(スペイン)の浅海堆積環境において、堆積物供給の変化が下部始新世デルタ層序に及ぼす影響を探ることを目的としています。
研究の背景は以下の問題に基づいています:始新世初期気候最適期(EECO)の間、地球温暖化、大気中の二酸化炭素濃度の上昇、極地の無氷状態が進行しました。この時期はまた、海洋-大気システムに大量の炭素同位体が放出される超熱イベント(hyperthermal events)が複数回発生し、これが全球的な気候と堆積物供給に影響を与えました。本研究では、Tremp盆地の堆積記録を分析し、これらの気候イベントが堆積物供給を変化させることでデルタ層序の形成にどのように影響を与えたかを探りました。
論文の出典
本論文は、Romain Vaucherらによって執筆され、著者らはジュネーブ大学地球科学科、ローザンヌ大学地球科学研究所、バルセロナ自治大学地質学科など、複数の研究機関に所属しています。論文は2024年10月9日にGeology誌にオンライン掲載され、タイトルは「Sediment supply variation control on lower Eocene delta sequences (Tremp basin, Spain)」です。
研究のプロセスと結果
1. 研究地域と地層分析
研究地域はスペインのTremp盆地に位置し、この盆地はピレネー山脈の南縁に位置する前縁盆地で、イベリアプレートとユーラシアプレートの衝突によって形成されました。研究チームは、Río Ésera川近くで644メートルの地層断面を測定し、地層中の堆積相、化石含有量、堆積構造などを詳細に記述しました。
研究の主要な地層単位は、Morillo石灰岩とCastigaleu層を含み、これらの地層は始新世初期(約52.2~50.6百万年前)の浅海堆積環境を記録しています。研究チームは、磁気層序学と生物層序学の手法を用いて、これらの地層の年代枠を確立しました。
2. 堆積相と地球化学分析
研究チームは、293個の岩石サンプルに対して有機炭素同位体(δ13Corg)分析を行い、古気候記録を再構築しました。δ13Corg値の変化は、炭素同位体偏移(CIE)を識別するために使用され、これらの偏移は超熱イベントなどの全球的な気候イベントに対応しています。さらに、研究チームはRock-Eval 6熱分解装置を使用して、サンプルの有機物含有量、水素指数(HI)、酸素指数(OI)、熱分解最高温度(Tmax)を分析し、有機物の起源と成熟度を評価しました。
3. 堆積環境と層序分析
研究結果によると、Tremp盆地の堆積環境は主にデルタ前縁と前デルタ堆積物で構成されています。デルタ前縁堆積物は厚い砂岩層を特徴とし、前デルタ堆積物は細粒の泥岩を特徴としています。研究チームは、複数の短期堆積層序(S層序)とより小規模な基本層序(E層序)を識別し、これらの層序はデルタの進展(progradation)と後退(retrogradation)のプロセスを反映しています。
4. 気候イベントと堆積物供給の関係
研究によると、デルタの進展段階は負の炭素同位体偏移(CIE)と密接に関連しており、これらの負の偏移は超熱イベントに対応しています。これらのイベントは気候温暖化と降水量の増加を引き起こし、それによって陸源堆積物の供給が増加しました。逆に、正の炭素同位体偏移は寒冷期に対応し、堆積物供給が減少し、デルタシステムが後退しました。
結論と意義
本研究は、始新世初期において、Tremp盆地のデルタ層序が主に堆積物供給の変化によって制御されていたことを示しています。この発見は、特に高頻度の気候変動の文脈において、気候変動が堆積システムに及ぼす重要な影響を強調しています。研究結果は、浅海堆積システムの形成メカニズムを理解するための新しい視点を提供し、今後の堆積層序解釈に重要な参考資料を提供します。
研究のハイライト
- 堆積物供給の主導的役割:本研究は、特に気候変動の文脈において、堆積物供給の変化がデルタ層序の形成において主導的な役割を果たすことを初めて体系的に証明しました。
- 高解像度の気候記録:δ13Corg分析を通じて、研究チームは高解像度の気候記録を再構築し、それを全球的な気候イベントと比較しました。
- 学際的手法:研究は、堆積学、地球化学、層序学の手法を組み合わせることで、堆積層序形成メカニズムの包括的な理解を提供しました。
その他の価値ある情報
本研究は、超熱イベントが堆積物供給に直接的な影響を及ぼすことを明らかにしました。これらのイベントは、水文循環と侵食速度を変化させることで、陸源堆積物の流入を著しく増加させました。この発見は、全球的な気候変動が堆積システムに及ぼす長期的な影響を理解するための新たな証拠を提供します。
本研究は、詳細な堆積記録と地球化学分析を通じて、堆積物供給の変化がデルタ層序の形成において重要な役割を果たすことを明らかにし、今後の堆積学研究に重要な理論的支援を提供します。