デュアルアーム宇宙ロボットの有限時間適応ロバスト軌道追従制御

二腕宇宙ロボットの有限時間適応ロバスト軌道追従制御研究

研究背景と問題

宇宙技術の急速な発展に伴い、宇宙ロボットは軌道上サービス、衛星組立、宇宙機燃料補給などの任務においてますます重要な役割を果たしています。しかし、宇宙ロボットシステムは任務を実行する際に多くの課題に直面しており、特にベースアクチュエータの摩擦非線形特性と外部時変擾乱の不確実性は、システムの軌道追従性能に深刻な影響を与えます。従来の制御方法ではこれらの問題を十分に処理することが難しく、特に高精度かつ高ダイナミック性能が要求される任務においてはその限界が顕著です。したがって、これらの非線形摩擦と外部擾乱を効果的に補償し、宇宙ロボットの軌道追従能力を向上させる方法が現在の研究の焦点となっています。

本研究では、二腕宇宙ロボット(Dual-Arm Space Robot, DSR)システムを対象とし、単一ジンバル制御モーメントジャイロ(Single Gimbaled Control Moment Gyroscopes, SGCMGs)に基づく有限時間適応ロバスト制御方法(Finite-Time Adaptive Robust Control, FTARC)を提案し、SGCMGsの摩擦非線形特性及び外部擾乱がシステム性能に及ぼす影響を解決し、高精度な関節角度軌道追従を実現することを目指しています。

論文出典と著者情報

本論文はLu Wang、Liaoxue Liu、Zhengrong Xiangの共著であり、3名の著者はいずれも中国南京理工大学自動化学院に所属しています。本研究は2025年2月24日に受理され、Nonlinear Dynamics誌に掲載されました。DOI番号は10.1007/s11071-025-11055-wです。本研究は中国国家自然科学基金、江蘇省自然科学基金、および中央大学基本科研業務費の支援を受けています。

研究プロセスと詳細な手法

1. システムモデリングと問題記述

研究ではまず、二腕宇宙ロボットシステムの動力学モデルを構築し、特にSGCMGsの摩擦特性に注目しました。SGCMGsはベースアクチュエータとして使用されており、その摩擦非線形特性はLuGre摩擦モデルによって記述されています。摩擦モデル中の未知パラメータは適応更新則によって推定され、外部擾乱の上限も推定され、システムへの悪影響を低減するために補償されます。システムの動力学方程式は以下のように表されます:

$$ D(q)\ddot{q} + H(q, \dot{q})\dot{q} = \tau + d $$

ここで、$D(q)$は慣性行列、$H(q, \dot{q})$は遠心力とコリオリ力行列、$\tau$は制御トルク、$d$は外部擾乱です。

2. コントローラ設計

上述の問題に対処するため、研究では有限時間適応ロバストコントローラ(FTARC)を提案しました。このコントローラの設計はLyapunov安定性理論に基づいており、補助ベクトル$r$を導入することで有限時間収束の制御則を設計しました。制御則は収束項$u_r$とモデル補償項$u_c$を含み、具体的には以下の形式です:

$$ u = u_c + u_r $$

ここで、収束項は誤差の収束を加速し、モデル補償項は摩擦非線形性と外部擾乱の影響を低減します。適応更新則は未知パラメータと擾乱上限を推定し、システムのロバスト性を確保します。

3. 安定性分析

Lyapunov関数を通じて、研究では提案されたコントローラが有限時間内にシステムを実際の有限時間安定に導くことを証明しました。具体的には、システムの軌道追従誤差が有限時間内に原点を含む任意の小さな近傍に収束することが示されました。この結論は厳密な数学的導出と定理証明によって検証されました。

4. 数値シミュレーション検証

提案されたコントローラの性能を検証するために、研究では2つのシナリオで数値シミュレーションを実施しました。シミュレーションでは、提案されたFTARC法と既存の有限時間非特異高速終端スライディングモード制御(NFTSMC)法を比較しました。シミュレーション結果は、FTARCが動的および定常性能の両方でNFTSMC法を上回り、特に軌道追従精度と誤差収束速度において優れた性能を示しました。

主要な結果と結論

1. シミュレーション結果

最初のシミュレーションシナリオでは、システムの初期姿勢角は$[-0.5, 0.65, 0.25, 0.55, 0.35]$ rad、初期角速度は$[0, 0, 0, 0, 0]$ rad/sでした。シミュレーション結果は、FTARC法が10秒以内にシステム姿勢誤差を$\pm3 \times 10^{-3}$ radの範囲に収束させることができるのに対し、NFTSMC法の収束誤差範囲は$\pm7 \times 10^{-3}$ radでした。さらに、FTARC法の関節軌道追従誤差は最小で$\pm7 \times 10^{-4}$ radに達し、NFTSMCの$\pm5 \times 10^{-3}$ radを大きく上回りました。

2番目のシミュレーションシナリオでは、システムの初期姿勢角は$[0, 3\pi/4, -\pi/4, \pi/4, \pi/4]$ rad、初期角速度は$[0, 0, 0, 0, 0]$ rad/sでした。シミュレーション結果は、FTARC法が2.5秒以内にシステム姿勢誤差を$\pm7 \times 10^{-4}$ radの範囲に収束させることができるのに対し、NFTSMC法の収束誤差範囲は$\pm3 \times 10^{-4}$ radでした。

2. 結論

本研究では、SGCMGsに基づく有限時間適応ロバスト制御方法を提案し、二腕宇宙ロボットシステムにおける摩擦非線形性と外部擾乱の問題を効果的に解決しました。理論分析と数値シミュレーションを通じて、このコントローラが軌道追従精度と誤差収束速度の両方で優れていることが証明されました。この研究は、宇宙ロボットシステムの制御に新しい視点と方法を提供し、重要な理論的および応用的価値を持っています。

研究のハイライト

  1. 革新的な制御方法:有限時間適応ロバスト制御方法を初めて二腕宇宙ロボットシステムに適用し、SGCMGsに基づくコントローラ設計を提案しました。
  2. 摩擦非線形性補償:適応更新則を用いて摩擦パラメータを推定し、SGCMGsの摩擦非線形性がシステム性能に及ぼす影響を効果的に補償しました。
  3. 外部擾乱抑制:擾乱上限推定方法を設計し、外部時変擾乱がシステムに与える影響を抑制することに成功しました。
  4. 高性能シミュレーション検証:数値シミュレーションを通じて、提案されたコントローラが動的および定常性能の両方で優れていることを検証し、特に軌道追従精度と誤差収束速度の大幅な向上を示しました。

研究の意義と価値

本研究の成果は、二腕宇宙ロボットシステムの制御に新しい理論的支援を提供するだけでなく、幅広い応用の可能性を持っています。この制御方法は、軌道上サービス、衛星組立、宇宙機燃料補給などの宇宙任務に適用でき、宇宙ロボットシステムの操作精度と信頼性を向上させることができます。さらに、提案された適応ロバスト制御フレームワークは、他の複雑な非線形システムの制御にも適用可能であり、重要な学術的および工学的価値を持っています。