GutBugDB:ヒト腸内マイクロバイオームを介した生物および異生物分子の生物変換を予測するウェブリソース
近年、ヒト腸内細菌叢(Human Gut Microbiota, HGM)が薬物や栄養素の代謝において重要な役割を果たすことが認識されるようになってきました。腸内細菌叢は、経口薬の生物学的利用能に影響を与えるだけでなく、その代謝酵素を介して薬物や生物活性分子の生体変換(biotransformation)に関与し、薬物の薬物動態や薬力学特性に影響を及ぼします。しかし、腸内細菌叢の複雑さや個人間の差異により、特定の微生物が薬物や栄養素の代謝に果たす具体的な役割を特定することは依然として大きな課題です。この問題を解決するため、研究者たちはGutBugDBを開発しました。これは、ヒト腸内細菌叢が媒介する生物および異生物質(xenobiotic)分子の生体変換を予測するためのオープンアクセスのデジタルリソースです。
論文の出典
この研究は、Usha Longwani、Ashok K. Sharma、Aditya S. Malwe、Shubham K. Jaiswal、およびVineet K. Sharmaによって共同で行われました。彼らは、インド科学教育研究大学(Indian Institute of Science Education and Research, IISER)BhopalキャンパスのMetabiosys研究所に所属しています。論文は2025年に『Gut Microbiome』誌に掲載され、タイトルは『GutBugDB: A Web Resource to Predict the Human Gut Microbiome-Mediated Biotransformation of Biotic and Xenobiotic Molecules』です。
研究の流れ
1. データの収集と分類
研究ではまず、米国食品医薬品局(FDA)のデータベースから1439種類の承認済み薬物と栄養素を収集し、文献レビューを組み合わせて、これらの薬物を14の薬理学的カテゴリーに分類しました。例えば、自律神経系薬、呼吸器系薬、心血管薬などです。さらに、DrugBankデータベースからこれらの薬物の生理学的ターゲットや治療応用に関する情報を取得しました。
2. 生体変換の予測
研究では、GutBugというウェブツールを使用しました。このツールは、人工知能(AI)、機械学習(machine learning)、および化学情報学(cheminformatics)の技術を組み合わせて、腸内細菌の代謝酵素が生物および異生物質分子を生体変換する過程を予測します。GutBugツールは3457種類の酵素基質を基に訓練されており、腸内細菌酵素のEC番号(Enzyme Commission number)およびこれらの酵素を持つ腸内細菌株を予測することができます。GutBugツールはモジュール設計を採用しており、3つのモジュールで構成されています。最初のモジュールはEC番号の最初の数字(反応カテゴリー)を予測し、2番目のモジュールはEC番号の2番目の数字(反応サブクラス)を予測し、3番目のモジュールは完全なEC番号を予測します。
3. データベースの構築
研究では、MySQL、PHP、HTML、およびJavaScriptを使用して、GutBugDBのユーザーフレンドリーなウェブインターフェースを構築しました。データベースには、690種類の腸内細菌ゲノムから得られた363,872の代謝酵素が含まれており、これらの酵素にはEC番号、Expasy ID、および機能ドメイン情報がタグ付けされています。GutBugDBは、1439種類のFDA承認薬物および栄養素の腸内微生物酵素が媒介する代謝生体変換情報を提供します。
4. データの検証
研究では、実験的に検証された生物および異生物質分子のセットを使用して、GutBugDBの検証を行いました。これらの分子には7種類の生物分子と10種類の異生物質分子が含まれており、研究結果は、GutBugDBが文献で既知の腸内細菌や酵素情報を提供するだけでなく、新しい腸内細菌株や酵素を予測し、生体変換情報をさらに充実させることができることを示しました。
主な結果
1. データベースの内容
GutBugDBには1439種類の分子が含まれており、そのうち1378種類はFDA承認薬物、61種類は栄養素です。これらの分子は14の薬理学的カテゴリーに分類されています。データベースにはまた、690種類の腸内細菌株の363,872の代謝酵素が含まれており、これらの酵素にはEC番号と機能ドメイン情報がタグ付けされています。
2. 予測結果
GutBugDBは、詳細な生体変換情報を提供し、特定の薬物を代謝できる予測された代謝酵素と腸内細菌株を含んでいます。例えば、薬物レボドパ(L-Dopa)に対して、GutBugDBはフェノール2-モノオキシゲナーゼと6-ヒドロキシ-3-スクシノイルピリジン3-モノオキシゲナーゼを予測しました。これらの酵素は、Acinetobacter属およびDelftia属の細菌に由来し、レボドパを代謝することができます。また、フルシトシン(Flucytosine)に対して、GutBugDBはシトシンデアミナーゼを予測しました。これらの酵素は、Escherichia属、Bifidobacterium属、およびClostridium属の細菌に由来し、フルシトシンを代謝することができます。
3. 検証結果
研究では、GutBugDBの予測結果を検証し、既知の生体変換情報において良好な性能を示すとともに、新しい腸内細菌や酵素情報を提供できることが確認されました。例えば、ラクツロース(Lactulose)に対して、GutBugDBは既知のホスホリラーゼとヒドロラーゼを予測しただけでなく、Ruminococcus属およびEscherichia属の細菌がラクツロースを代謝できることも予測しました。
結論と意義
GutBugDBは、研究者がヒト腸内細菌が媒介する薬物や栄養素の代謝を予測するための包括的なリソースを提供します。このデータベースは、候補薬物の潜在的な生体変換を特定するだけでなく、薬物処方において薬物の無効性を防ぎ、薬物の有効性と耐容性を向上させるのに役立ちます。さらに、GutBugDBは将来の実験的検証のための手がかりを提供し、腸内細菌叢が媒介する生体変換メカニズムの理解をさらに進めるものです。
研究のハイライト
- 包括性:GutBugDBは1439種類の分子を含み、1378種類のFDA承認薬物と61種類の栄養素をカバーし、詳細な生体変換情報を提供します。
- 革新性:研究では機械学習ベースのGutBugツールを使用し、腸内細菌の代謝酵素や菌株を予測することで、より高精度の生体変換情報を提供します。
- 実用性:GutBugDBは、薬物開発や処方において重要な参考資料となり、研究者が腸内細菌叢の薬物代謝における役割をより深く理解するのに役立ちます。
その他の価値ある情報
GutBugDBは定期的に更新される予定で、最後の更新は2024年6月に行われました。このデータベースは、将来のメタゲノム研究から得られる新しいデータとの互換性もあり、その内容を継続的に拡張し、腸内細菌叢研究を支援し続けることができます。