金属結合強度調整により実用的燃料電池用の大規模合金ナノ結晶合成が可能に
近年、燃料電池は、クリーン且つ再生可能なエネルギー技術として広く注目されています。しかし、燃料電池の広範な応用は、酸素還元反応(ORR)電触媒の安定性問題に直面しています。化学的に秩序構造を持つL10-PTM金属間ナノ結晶(INCs)は、低い形成エネルギー(例:秩序化L10-PTFEの原子形成エネルギーは約-0.232 eV)と高い結合エネルギーにより、無秩序のA1-PTMよりも高い安定性を示し、燃料電池分野で非常に有望な電触媒の一つです。しかし、このような秩序構造を実現するために必要な高温アニール処理(通常>600°C)が深刻な粒子の焼結、形態変化、およびその秩序度の低下を引き起こし、この電触媒の量産を困難にし、燃料電池の実際の応用を制限しています。
研究背景と動機
上述の問題を解決するために、本研究チームは低融点金属(M’ = Sn、Ga、In)誘導結合強度削弱戦略を提案し、活性化エネルギー(Ea)の低減を図り、PTM(M = Ni, Co, Fe, Cu, Zn)触媒の秩序化プロセスを促進し、より低い温度(≤450°C)で高PT含量(≥40 wt%)のL10-PT-M-M’金属間ナノ結晶を十グラムスケールで製造することを目指しました。この研究は、実験的検証だけでなく、X線スペクトル解析、オンライン電子顕微鏡と理論計算を通じて低温秩序化プロセスの基本メカニズムを明らかにし、スペクトル分析、材料合成、および実際の応用試験を緊密に結びつけました。
研究チームと発表情報
この研究は北京大学と華中科技大学の研究チームの共同研究によるものです。著者にはJiashun Liang、Yangyang Wan、Houfu Lu、Xuan Liu、Fan Lv、Shenzhou Li、Jia Xu、Zhi Deng、Junyi Liu、Siyang Zhang、Yingjun Sun、Mingchuan Luo、Gang Lu、Jiantao Hanなどが含まれています。この研究は2024年4月に《Nature Materials》ジャーナルに発表され、DOIはhttps://doi.org/10.1038/s41563-024-01901-4 です。
実験設計と方法
実験フロー
- 材料の製造と表現:湿式化学法を用いて炭素支持の三元PT50NI50-XM’Xの合金ナノ結晶(X = 7, 10, 15)を製造しました。透過電子顕微鏡(TEM)、高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)、立体透過電子顕微鏡(STEM)を用いて構造表現を行いました。X線回折(XRD)および差動走査熱量測定法(DSC)でその結晶構造と秩序度を確認しました。
- 低温秩序化処理:製造したPT50N35SN15に対して450°C、H2/Arガス環境下でアニール処理を行い、秩序化L10-PT50NI35SN15/C合金ナノ結晶を得ました。
- 電気化学性能試験:回転円盤電極(RDE)を用いてナノ結晶の電気化学性能を測定し、膜電極アセンブリ(MEA)を通じて触媒の実際の水素-空気燃料電池の性能を評価しました。
研究結果
- 構造表現と秩序化メカニズム:TEM、HRTEM、STEMの観察により、原子スケールの画像でL10構造の秩序配列が示されました。XRDおよびDSCの試験結果は、Snの導入によりPT50NI35SN15の秩序化温度が410°Cに顕著に低下し、活性化エネルギーも大幅に削減されたことを示しています。Kissinger方程式の計算で活性化エネルギーが181.2 kJ mol-1と算出され、純PT50NI50の267.7 kJ mol-1に比べてEa値が明らかに減少しました。
- 電気化学性能:L10-PT50NI35GA15/Cは水素-空気条件下で0.7 Vで1.67 A cm-2の高い電流密度を示し、90,000サイクル後も80%の電流密度を保ち、米国エネルギー省(DOE)の性能指標を超えて、実際のプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の最優秀カソード電触媒の一つとなりました。
その他の重要発見
研究はまたLMIBSW戦略が他のPTM合金にも普遍性を持つことを示し、PT50FE45SN5、PT50CU45SN5などの系列でも同様の低温秩序化現象が見られ、この戦略の汎用性と価値を強調しました。密度汎関数理論(DFT)計算により、M’のドーピングによる結合強度の削弱がEaを低減し低温での秩序化を促進する根本原因であることが明らかにされました。このメカニズムの確定は広範な合金系の設計に理論的な指針を提供します。
研究の意義
- 科学的価値:低温秩序化過程におけるSnの促進作用のメカニズムを明らかにし、結合強度のコントロールが秩序化に対する影響を深く理解しました。
- 実際の応用価値:重型車両(HDV)向けのPEMFCにおいて、高性能、低コスト、且つ大量生産可能な電触媒を提供し、燃料電池が実際の用途での応用を推進しました。
研究のハイライト
- 革新的な方法:低融点金属誘導の結合強度削弱戦略を提案し、高温アニールによる粒成長と形態変化の問題を解決し、高PT含量の合金材料を実現しました。
- 顕著な性能向上:開発されたL10-PT-NI-M’/C触媒は実際の燃料電池条件下で非常に高い電流密度と良好な安定性を示し、既存の市販製品をはるかに上回りました。
- 普遍性:この戦略はPT-NI-SN系だけでなく、他の多くの合金系でも有効性を示し、戦略の汎用性と大きな応用可能性を示しました。
この研究により、革命的な触媒合成戦略が提供され、高い実用価値を備え、将来の高性能燃料電池電触媒の設計に理論的および技術的基盤が築かれました。