茂谷柑の収穫後の保存期間を延ばすためのUVC LEDシステム

学術的背景

柑橘類の果物は、その豊富な栄養価と独特の風味により、長年にわたり消費者に愛されてきました。しかし、収穫後の貯蔵中に病害を受けやすく、特に*Penicillium digitatum*(青カビ菌)によって引き起こされる緑カビ病が問題です。この病害は果実の腐敗を引き起こし、その保存期間を大幅に短縮します。従来、緑カビ病の制御には化学的な殺菌剤が広く使用されていましたが、健康や環境に対する残留物の潜在的な脅威から、非化学的な代替方法が注目を集めています。

近年、物理的処理技術は残留物がなく環境に優しい特徴を持つため注目されており、その中でも紫外線C(UVC、波長200-280 nm)放射が有望な解決策として挙げられます。UVCは病原体のDNAを破壊することで病害の発生を抑制し、果実の抵抗力を高め、成熟を遅らせることができます。しかし、これまでの研究でUVCが柑橘類の緑カビ病を効果的に減少させることが示されている一方で、商業的な応用においてはまだ多くの課題があります。例えば、光の均一性や照射量の制御などが挙げられます。これらの問題を解決するため、本研究ではUVC LEDに基づいた光学システムを設計し、光分布の均一性を最適化し、Murcott柑橘の保存における実際の効果を評価することを目指しました。

論文の出典

この論文はLe Thi-Thi-Ngoc氏と彼女のチームによって執筆され、著者らは台湾国立中央大学の光電・光子学科、台中地区農業改良場の作物環境科、そして国立陽明交通大学電子物理学部に所属しています。論文は2025年に『Optical and Quantum Electronics』誌に掲載され、記事番号は57:161、DOIは10.1007/s11082-025-08071-wです。

研究プロセス

a) 実験設計とワークフロー

本研究は主に以下のステップで構成されています:

1. 光学モデリングとシステム設計

まず、275 nmのUVC LEDを光源として選定しました。このLEDは0.350 Aの電流で50 mWの出力が得られました。光分布の均一性を向上させるために、研究チームは各LEDにドームレンズを取り付け、発散角を狭めました。蛍光フィルムを使った実験とモンテカルロ法による光線追跡法を組み合わせることで、研究者たちは正確なLED光学モデルを構築し、それをシステム設計に適用しました。

最終的に設計されたシステムは4×4配列のUVC LEDで構成され、それぞれのLEDが一つのMurcott柑橘に対応しています。光学モジュール全体は目標領域の23 cm上に設置され、目標領域のサイズは34×34 cm²です。また、システムには熱問題を軽減するためにアルミ製のキャビティが装備され、光が目標領域に集中するよう設計されています。

2. 照射強度のモニタリングと分析

システムの性能を検証するために、研究者たちはシミュレーションと実験の両方で目標領域の照度分布を測定しました。具体的には、パワー計デテクターを使用して目標領域内の異なる位置での照度値を記録し、均一性と光学利用率(OUF)を計算しました。結果として、シミュレーションでは均一性が85.4%、OUFが80.2%、実験では均一性が77.2%となり、このシステムが高い光学性能を持つことが示されました。

さらに、特定の位置にあるLEDをオフにしてシステムの柔軟性をテストしました。結果として、一部のLEDをオフにしても、残りのLEDが目標領域内の均一な照射を確保できることがわかりました。

3. UVC処理が青カビ菌に与える影響(試験管内実験)

UVCが青カビ菌に与える抑制効果を評価するため、研究者たちは*P. digitatum*の胞子懸濁液を異なるUVC用量(0.00~1.50 kJ/m²)で暴露しました。24時間培養後に胞子の発芽状況を観察し、その後72時間培養後にコロニー形成数を統計しました。結果として、UVC用量が0.3 kJ/m²を超えると、胞子の成長が顕著に抑制され、抑制率は90%以上に達しました。

4. UVC処理がMurcott柑橘に与える影響(体内実験)

研究者たちは異なるグループのMurcott柑橘を対象に、0分から20分間のUVC処理を行い、対応するUVC用量範囲は0.00~6.00 kJ/m²でした。処理後の柑橘は室温条件下で保存され、定期的に病害重症度指数(DSI)が評価されました。結果として、0.9~4.5 kJ/m²の用量範囲で、柑橘の病害重症度指数(DSI)は4週間以内に10%以下に維持されました。最適な用量は1.5 kJ/m²であることが判明しました。

b) 主要な結果

1. 光学性能

目標領域内で、システムの照度分布は3~5 W/m²であり、シミュレーションと実験での均一性はそれぞれ85.4%と77.2%に達しました。これは、このシステムが目標領域に効率的に光を集約し、高い均一性を保つことができることを示しています。

2. 青カビ菌への抑制効果

試験管内実験では、UVC用量が0.3 kJ/m²を超えると、*P. digitatum*胞子の成長が顕著に抑制され、抑制率は90%以上に達しました。この結果は、UVCが病原体に対して有効な殺菌能力を持つことを確認しました。

3. Murcott柑橘の保存効果

体内実験では、UVC処理がMurcott柑橘の緑カビ病の発生率を大幅に低下させることが示されました。0.9~4.5 kJ/m²の用量範囲では、柑橘の病害重症度指数(DSI)は4週間以内に10%以下に抑えられました。しかし、過剰なUVC用量(例:6.0 kJ/m²)は保存効果をさらに改善せず、むしろエネルギーの浪費につながる可能性があります。

c) 結論と意義

本研究は、UVC LEDベースの光学システムがMurcott柑橘の収穫後の保存期間を効果的に延長できることを示しました。このシステムは高い光学性能を持ち、異なる用途に応じて柔軟に調整できます。さらに、研究はUVC用量と保存効果の関係を明らかにし、今後のUVC処理の最適化に重要な参考情報を提供しました。

科学的な価値としては、この研究はUVC技術が柑橘類の保存分野での応用に関する空白を埋め、今後の研究の基礎を築きました。応用面では、このシステムはコストが低く、操作が簡単でメンテナンスが容易という利点があり、大規模な商業展開に適しています。

d) 研究のハイライト

  1. 革新的な光学設計:ドームレンズを用いて光分布を最適化し、照射の均一性を大幅に向上させました。
  2. 柔軟な応用シーン:システムは自動制御とインテリジェントに統合され、必要に応じてLEDを選択的にオンまたはオフできます。
  3. 明確な用量ガイドライン:研究はUVC用量と保存効果の関係を明らかにし、実際の応用に科学的な根拠を提供しました。
  4. 多角的な検証:試験管内および体内実験を通じてUVCの効果を包括的に検証し、結論の信頼性を高めました。

e) その他の有益な情報

研究チームはまた、将来的にUVCが他の果物の保存に与える影響や、長期保存中の微生物耐性と修復メカニズムの変化についてさらに探求すべきだと提案しました。さらに、他の保存技術(例:低温保存)と組み合わせることで、保存効果をさらに向上させられる可能性があるとも述べています。