凝縮体促進の ENL 突然変異がヒストン修飾と遺伝子発現の動的調節によって体内の腫瘍形成を駆動する

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科学論文報告:ENL変異が引き起こす腫瘍発生

本科学論文はYiman Liu、Qinglan Li、Lele Songらが執筆し、ENLタンパク質の変異が腫瘍発生に及ぼす影響を主に研究しました。この研究は2024年『Cancer Discovery』誌に掲載されました。

背景

遺伝子発現の正確な制御は正常な発育および組織の恒常性にとって重要です。このプロセスに偏りが生じると、特に癌を含む様々な病気の原因となる可能性があります。近年、転写凝集体(transcriptional condensates)の形成メカニズムと遺伝子調節における役割が広範に研究されています。これらの凝集体はタンパク質と核酸を介した多価の弱い相互作用により形成されます。しかし、これらの生物学的機能が生理関連の体内環境で具体的にどのように機能するかは未だ不明です。

急性骨髄性白血病(AML)およびWilms腫瘍におけるENLタンパク質変異は、凝集物の形成および遺伝子の活性化を促進すると考えられていますが、その腫瘍発生における役割は明らかではありません。

研究目的

本研究の目的は、ENL変異が転写調節および腫瘍発生においてどのような具体的な機能を持つかを解明することです。また、病原性の凝集体を対象とした癌治療の戦略についても探討します。

研究経過と方法

動物実験

研究チームは条件的ノックインマウスモデルを用いてENL変異の機能を研究しました。このモデルは主にENLタンパク質の重要な変異(T1変異)に焦点を当てています。この変異はWilms腫瘍およびAMLで頻繁に見られます。マウスは変異型ENLタンパク質(ENL-T1)を発現するグループと、野生型ENLタンパク質(ENL-WT)を発現するグループに分けられました。

フローサイトメトリーと形態学的分析

フローサイトメトリーにより骨髄中の造血幹細胞(HSPCs)およびその子孫細胞の分布と状態を分析し、組織切片を用いて白血病細胞が骨髄、脾臓および他の器官にどのように分布するかを観察しました。

RNA-seqとエピジェノム分析

RNAシーケンス(RNA-seq)とCUT&Tag技術を使用し、マウス骨髄細胞中の遺伝子発現パターンおよびヒストン修飾の変化を研究しました。特にHSPCs中のH3K27ac(ヒストンアセチル化)およびH3K27me3(ヒストントリメチル化)修飾に焦点を当てました。

抗がん剤実験

また、小分子阻害剤TDI-11055がENLのアセチル結合活性をブロックし、ENL変異体凝集物に対する効果およびその潜在的治療効果を検証しました。

研究結果

ENL変異によるAMLの引き起こし

研究結果は、ENL-T1マウスが迅速に侵襲性のAMLに発展することを示しました。変異型ENLタンパク質はHSPCs内で明確な核内凝集物を形成し、重要な白血病遺伝子の位置(例:Hoxaグループ遺伝子)に蓄積しました。これらのマウスは著しい脾臓肥大および白血球数の増加を示し、骨髄中の正常な造血三系は白血病細胞に置換され、脾臓、肝臓および肺などの器官にも大量の白血病細胞が浸潤していました。

エピジェネティックな調節

エピジェノム分析は、ENL変異がH3K27acおよびH3K27me3修飾を変化させ、造血細胞の転写プロファイルを再プログラムすることを示しました。具体的には、ENL-T1によるH3K27acおよびP300(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)の蓄積は、特に発育および炎症に関連する遺伝子に対する影響が顕著でした。

阻害剤の効果確認

小分子阻害剤TDI-11055は、遺伝子組織の標的位置でのENL変異体の蓄積を阻止し、H3K27acおよびP300レベルを低下させ、これらの遺伝子の発現を効果的に抑制しました。この阻害はAMLの発病過程を著しく遅延させ、マウスの生存率を大幅に向上させました。

結論と意義

この研究は、ENL変異がクロマチン調節および腫瘍発生にどのように影響するかのメカニズムを明らかにし、これらの変異が真の腫瘍促進因子であることを示しました。また、ENL変異による転写凝集体の形成を妨げることでAMLの発展を抑制できることが示され、潜在的な治療戦略を提供しました。

ハイライト

  1. ENL変異の腫瘍促進性: 本研究はENL変異の強力な腫瘍促進性を初めて体内で確認しました。
  2. クロマチン調節のメカニズム: ENL変異がヒストン修飾を介して遺伝子発現に影響するメカニズムを明らかにしました。
  3. 小分子阻害剤の潜在性: TDI-11055はENL変異を標的とすることによるAML治療の潜在性を示し、新しい治療の方向性を開拓しました。

まとめ

本研究は、凝集体が腫瘍発生において果たす役割および新しい治療方法の探査に重要な科学的基盤を提供します。特に、癌関連の転写凝集体の調節に関する研究は、将来の癌治療に新たな観点と可能性を提供します。