建設現場での外骨格補助立ち姿勢と跪き姿勢のバランスおよび作業評価

建設作業員の膝関節エクソスケルトンによるバランス補助と作業タスク評価

背景紹介

建設作業員は危険な作業環境で深刻な安全と健康リスクに直面しており、特に高所での作業では、長時間の立ち姿勢や膝立ち姿勢が膝関節の損傷、筋骨格系疾患、視覚的擾乱などを引き起こし、作業員のバランス能力を低下させます。転倒やその他の労働災害を防ぐために、研究者は技術的手段を通じて建設作業員のバランス能力を向上させる方法に注目しています。膝関節エクソスケルトン(knee exoskeleton)は、膝関節への負荷を軽減し、さまざまな作業姿勢でのバランスを維持するための有望な介入手段として認識されています。

本研究の核心は、下肢関節、特に膝関節が立ち姿勢と膝立ち姿勢での神経バランス制御戦略にどのように影響するかを探ることです。また、高所環境と膝関節エクソスケルトンが建設作業員の姿勢バランスと溶接タスクのパフォーマンスに及ぼす影響も評価しました。バーチャルリアリティ(VR)とミックスドリアリティ(MR)技術を用いて、高所環境と溶接タスクをシミュレートし、建設作業員のバランス戦略を研究するための新しいツールを提供しました。

論文の出典

本論文はGayatri SreenivasanChunchu ZhuJingang Yiによって共同執筆され、著者らはそれぞれPurdue UniversityRutgers Universityに所属しています。論文は2023年8月26日から30日に開催された2023 IEEE International Conference on Automation Science and Engineeringで発表され、2025年にIEEE Transactions on Automation Science and Engineering誌に正式掲載される予定です。

研究プロセス

1. 実験設計とモデル構築

研究では、まず多リンク倒立振子モデル(multi-link inverted pendulum models)を用いて、立ち姿勢と膝立ち姿勢のバランス制御戦略を分析しました。具体的には、立ち姿勢には三リンク倒立振子モデル(triple-link inverted pendulum, TIP)を、膝立ち姿勢には二リンク倒立振子モデル(double-link inverted pendulum, DIP)を使用しました。これらのモデルは、地面反力の交点(intersection point, IP)の高さの周波数特性を通じて神経バランス制御戦略を定量化するために使用されました。

2. バーチャルリアリティ環境の構築

研究者はHTC Vive Proバーチャルリアリティシステムを使用して高所作業環境をシミュレーションし、Unityゲームエンジンを用いて低所(low elevation, LE)と高所(high elevation, HE)の作業環境を構築しました。また、バーチャル環境では溶接タスクもシミュレーションし、作業員がタスクを実行する際のバランス能力とパフォーマンスを評価しました。

3. 実験対象とプロセス

研究では11名の健康な被験者(女性4名、男性7名)を募集し、立ち姿勢と膝立ち姿勢の2種類の姿勢実験を行いました。各被験者は異なる条件下で以下の一連のテストを完了しました: - プロトコルA: バランス評価:被験者はエクソスケルトンの有無にかかわらず、立ち姿勢または膝立ち姿勢を60秒間維持し、バランス能力を評価しました。 - プロトコルB: 溶接タスク評価:被験者はバーチャル環境で溶接タスクを行い、タスク実行中のバランスとパフォーマンスを評価しました。

実験データには、地面反力(ground reaction force, GRF)、圧力中心(center of pressure, COP)、加速度(IMUセンサーで計測)、および心拍数データが含まれます。研究者はカスタムPythonスクリプトを使用してこれらのデータを同期し、分析しました。

4. データ分析とモデル検証

研究では、線形二次レギュレーター(linear quadratic regulator, LQR)を神経バランス制御器として使用し、異なる条件下での被験者のバランス戦略を定量化しました。IP高さ周波数曲線を分析することで、被験者が異なる周波数でどのようにバランスを制御しているかを明らかにしました。さらに、研究者は加速度楕円面積(acceleration ellipse area, A_acc)と揺れ楕円面積(sway ellipse area, A_sway)を計算し、被験者の動的制御と姿勢安定性を定量化しました。

研究結果

1. バランス戦略分析

実験結果は、膝関節が立ち姿勢と膝立ち姿勢のバランス制御において重要な役割を果たすことを示しました。特に高所環境では、膝関節エクソスケルトンが被験者の姿勢の揺れを大幅に減少させました。具体的なデータでは、高所環境において、エクソスケルトンを装着した被験者の立ち姿勢での圧力中心の揺れ面積は62%減少し、膝立ち姿勢では39%減少しました。

2. タスクパフォーマンス評価

溶接タスクを実行する際、エクソスケルトンを装着した被験者は高所環境でのタスクパフォーマンスが顕著に向上しました。溶接タスクの完成率、正確性、精度がいずれも向上し、特に高所環境ではエクソスケルトンの補助効果がより顕著でした。

3. 心拍数と生理的反応

研究では、高所環境が被験者の心拍数を上昇させることも明らかになりましたが、エクソスケルトンの装着はこの生理的ストレスをある程度緩和することができました。心拍数の変化の統計的有意性は高くありませんでしたが、エクソスケルトンが高所環境による心理的ストレスを軽減する傾向があることが示されました。

4. モデル検証とパラメータフィッティング

LQR制御器の最適パラメータフィッティングを通じて、研究者は立ち姿勢と膝立ち姿勢のバランス制御戦略に顕著な違いがあることを発見しました。立ち姿勢では、被験者は足首関節と膝関節の戦略を好んで使用し、膝立ち姿勢では膝関節に多く依存していました。これらの発見は、エクソスケルトンの設計に重要な指針を提供します。

結論と意義

本研究では、バーチャルリアリティ技術と多リンク倒立振子モデルを用いて、膝関節が建設作業員のバランス制御において果たす重要な役割を深く探求し、高所作業環境における膝関節エクソスケルトンの有効性を検証しました。研究結果は、エクソスケルトンが作業員の姿勢安定性を大幅に向上させるだけでなく、特に高所環境でのタスクパフォーマンスも改善することを示しました。これらの発見は、将来のエクソスケルトンデバイスの設計と最適化に科学的な基盤を提供します。

研究のハイライト

  1. 革新的なモデル:本研究では初めて三リンクと二リンクの倒立振子モデルを使用し、立ち姿勢と膝立ち姿勢のバランス制御戦略、特に膝関節の役割を定量化しました。
  2. バーチャルリアリティ技術:VRとMR技術を使用して、複雑な作業環境をシミュレートし、バランス制御研究に新しいツールを提供しました。
  3. エクソスケルトンの応用検証:膝関節エクソスケルトンが建設作業員のバランス制御とタスクパフォーマンスにおいて実際に役立つことを検証しました。
  4. 多次元データ分析:IP高さ周波数分析、加速度、揺れ面積などの多次元データを通じて、被験者のバランス制御戦略を包括的に評価しました。

その他の貴重な情報

研究者は、今後の研究では被験者の範囲を拡大し、経験豊富な建設作業員を含めることが重要であると指摘しました。さらに、筋電図(EMG)などのより直接的な生理的測定手段を導入し、エクソスケルトンが筋肉の活性化に及ぼす影響を深く分析することも今後の重要な方向性です。また、バランス変化にリアルタイムで対応する適応制御システムの開発も将来の研究の重要なテーマです。