MERTKは脊髄損傷後のRhoA/ROCK1/P-MLC経路を介して血液脊髄バリア透過性を減少させる

MERTKがRhoA/ROCK1/p-MLC経路を介して脊髄損傷後の血液脊髄関門透過性を低下させる研究

脊髄損傷(Spinal Cord Injury、SCI)は、外傷、炎症、腫瘍、またはその他の病理学的原因によって引き起こされる中枢神経系疾患であり、患者の感覚、運動、および自律神経機能に障害を引き起こし、個人と社会に重大な負担をもたらします。脊髄損傷に伴う血液脊髄関門(Blood-Spinal Cord Barrier、BSCB)の破壊は、二次損傷の重要な出来事です。MERTKは炎症と細胞骨格のダイナミクスの調節に重要な役割を果たしますが、BSCBにおけるその特定の役割はまだ明確ではありません。本研究は、BSCB修復におけるMERTKの独特な役割を明らかにしました。MERTKの発現はSCI後の血管内皮細胞で減少しました。MERTKの過剰発現は、密着結合タンパク質(TJs)を上方制御することでBSCB透過性を低下させ、その結果、炎症とアポトーシスを抑制しました。最終的に、これは神経再生と機能回復の増強につながりました。さらなる実験により、RhoA/ROCK1/p-MLC経路がMERTKの効果において重要な役割を果たしていることが明らかになりました。これらの発見は、MERTKがBSCB透過性を軽減する能力を通じてSCIの回復を促進する役割を強調し、SCIの修復に潜在的な標的を提供する可能性があります。

研究背景と目的

SCIの発生率は世界中で年々増加していますが、これまでのところ効果的な治療法は限られています。二次損傷には、炎症反応、組織浮腫、神経変性、およびグリア瘢痕形成などの多様なプロセスが含まれます。原発性損傷によって引き起こされる出血とBSCBの破壊は、二次損傷の発展における重要な出来事と考えられています。

BSCBは特殊なフィルターとして機能し、代謝産物、栄養素、および酸素の血液と脊髄間の移動を制御し、安定した内部環境を維持し、脊髄の保護に極めて重要な意味を持ちます。その破壊は、好中球やマクロファージなどの血球が脊髄組織に浸透し、炎症分子を放出し、炎症反応を引き起こし、酸化ストレスを誘発し、神経細胞のアポトーシスを引き起こします。したがって、BSCBの破壊を抑制し、それに続くアポトーシスを阻止することは、SCIの重症度を軽減し、機能回復を促進するための重要な治療手段となる可能性があります。

MERTKは、TAM(TYRO3、AXL、MERTK)受容体チロシンキナーゼファミリーのメンバーの1つであり、成体組織の恒常性維持に重要な役割を果たします。このファミリーの受容体のSCIにおける正確な役割はまだ完全には理解されていません。MERTKと炎症の関係は、多発性硬化症、くも膜下出血、外傷性脳損傷などの疾患において神経系と関連付けられています。炎症はBSCBの透過性と密接に関連しており、ミクログリアを活性化し、炎症調節因子の放出とTJsの上方制御をもたらす可能性があります。これらの発見に基づいて、MERTKは炎症とアポトーシスを減少させ、神経修復を促進すると同時にBSCBの完全性を維持する上で役割を果たす可能性があります。

研究の出典と著者情報

本研究は、中国科学院脳科学・インテリジェント技術卓越イノベーションセンターの林潔釗、孫元芳、夏斌、王一涵、謝長楠、王金鋒、胡金偉、朱立新によって2023年9月23日に受理され、2023年12月22日に*Neurosci. Bull.*に掲載されました。

研究方法と結果

本研究では、細胞培養、動物モデル、行動試験、組織学的染色、ウェスタンブロット、免疫蛍光染色、TUNEL染色、BSCB透過性試験など、多様な実験手順を設計しました。SCIモデルと酸素-グルコース欠乏(OGD)誘導BEND.3細胞モデルを確立することで、MERTKの差次的発現と細胞局在を決定しました。結果は、SCI後にMERTKタンパク質発現が低下し、TJsと類似した時間発現パターンを示しました。BSCBにおけるMERTKの役割は、TJsを下方制御し、BSCBの透過性を低下させることで、間接的に炎症とアポトーシスを抑制し、その結果、機能回復と神経再生の増強につながると考えられています。

さらに、BEND.3細胞モデル実験を通じて、MERTKがTJsの発現を上方制御することが確認されました。OGD条件下では、密着結合タンパク質の発現が低下しましたが、MERTKの過剰発現はこの効果を逆転させました。MERTK過剰発現はSCI後の早期段階で炎症を抑制し、炎症性サイトカインのレベルを低下させました。さらに、MERTK過剰発現はアポトーシスも減少させました。

行動試験は、MERTK過剰発現が動物モデルにおいて神経再生と機能回復を促進したことを示しました。免疫蛍光染色とNISSL染色の結果は、MERTK過剰発現が神経細胞数を増加させ、組織損傷を軽減したことを示しました。ウェスタンブロット分析では、MERTK過剰発現がGAP43とNF200のタンパク質発現を有意に増加させました。

さらに、研究データは、MERTKがRhoA/ROCK1/p-MLC経路を抑制することでSCIによって増加したBSCB透過性を減少させることを示しました。このメカニズムは細胞骨格の再構築を含む可能性があり、密着結合タンパク質の構造に影響を与え、BSCBの完全性を維持します。

研究結論と価値

本研究は、脊髄損傷後の修復過程におけるMERTKのBSCB構造の完全性維持、炎症およびアポトーシスの緩和における重要な役割を初めて明らかにし、SCIの病理メカニズムにおけるMERTKの役割とその治療潜在性のさらなる研究のための生物学的基礎と標的を提供しました。研究では、MERTKの過剰発現がRhoA/ROCK1/p-MLC経路を抑制することでBSCB構造の完全性を保護し、炎症とアポトーシスを軽減し、機能回復と神経再生を促進できることが分かりました。MERTKがキナーゼとして活性を調節しやすいことを考慮すると、この発見は実験結果の臨床応用に役立つ可能性があります。