全食物植物ベースの食事は転移性乳がん患者のアミノ酸レベルを低下させる

植物性全食品食事が転移性乳がん患者のアミノ酸レベルに及ぼす影響

研究背景

がん細胞の成長と生存は、大量の代謝需要、特にアミノ酸への依存に支えられています。腫瘍は周囲の微小環境からアミノ酸を摂取することでその需要を満たしますが、食事中のアミノ酸摂取量は血清中のアミノ酸レベルに影響を与える可能性があります。研究によると、植物性食事は動物性食事よりもアミノ酸が少ないとされていますが、植物性食事ががん患者の血清中のアミノ酸レベルを低下させるかどうかは不明です。そこで、研究者たちは臨床試験を通じて、植物性全食品食事が転移性乳がん患者の血清アミノ酸レベルに及ぼす影響を探り、この食事法ががん治療に与える潜在的な相乗効果を評価することを目指しました。

論文の出典

この論文はTashjaé Q. Scalesらによって執筆され、研究チームはUniversity of Rochester Medical CenterWilmot Cancer Instituteなどの機関から構成されています。論文は2024年にCancer & Metabolism誌に掲載され、タイトルは《A whole food, plant-based diet reduces amino acid levels in patients with metastatic breast cancer》です。この研究は、米国癌協会やNIHを含む複数の基金から支援を受けました。

研究の流れと実験設計

1. 研究対象と食事介入

研究には17名の転移性乳がん患者が参加し、これらの患者は8週間にわたりad libitum(自由摂取)の植物性全食品食事を採用しました。食事介入期間中、患者は1日3食と1回の軽食を摂取し、食事内容には果物、野菜、全粒穀物、豆類、ナッツ、種子などの植物性食品が含まれ、動物性食品、調理油、固形脂肪の摂取は禁止されました。

2. データ収集と分析

研究では以下の方法でデータを収集しました: - 食事記録:患者はベースライン時と8週間後にそれぞれ3日間の食事記録を行い、平日2日分と週末1日分の食事内容を記録しました。食事記録はNutrition Data System for Research (NDSR)を用いて分析され、カロリー、脂肪、炭水化物、タンパク質、食物繊維、アミノ酸の摂取量が計算されました。 - 血清サンプル分析:ベースライン時と8週間後に患者の血清サンプルを採取し、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)を用いて血清中のアミノ酸レベルを分析しました。実験にはOrbitrap Exploris 240質量分析計とVanquish Flex液体クロマトグラフィーシステムを使用し、El-MAVENソフトウェアでデータ処理を行いました。

3. 実験方法

  • 血清サンプル処理:血清サンプルをメタノール抽出液と混合し、遠心分離後に上清を採取し、乾燥後アセトニトリルで再懸濁し、LC-MS分析を行いました。
  • LC-MS分析Waters XBridge XP BEH Amideカラムを使用し、移動相はホルム酸アンモニウムとホルム酸を含む水とアセトニトリル溶液でした。質量分析計は正イオンモードで動作し、質量電荷比(m/z)範囲は70-800でした。

研究結果

1. 食事摂取の変化

研究によると、植物性全食品食事を採用した後、患者のカロリー、脂肪、タンパク質の摂取量が有意に減少し、食物繊維の摂取量が有意に増加しました。具体的なデータは以下の通りです: - カロリー摂取量は約20%減少しました。 - 脂肪摂取量は約30%減少しました。 - タンパク質摂取量は約25%減少し、そのうち動物性タンパク質はほぼ完全に植物性タンパク質に置き換わりました。 - 食物繊維摂取量は約40%増加しました。

2. 血清アミノ酸レベルの変化

研究では、植物性全食品食事が患者の血清中のアミノ酸レベルを有意に低下させることが示されました: - 必須アミノ酸:9種類の必須アミノ酸のうち5種類(イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン)のレベルが有意に低下しました。 - 非必須アミノ酸:11種類の非必須アミノ酸のうち4種類(アラニン、グルタミン酸、プロリン、チロシン)のレベルが有意に低下しました。

3. その他の代謝指標の変化

  • 体重とBMI:患者の体重とBMIが有意に減少しました。
  • インスリンとIGF:血清インスリンおよびインスリン様成長因子(IGF)レベルが有意に低下し、食事介入が腫瘍成長を促進するシグナル経路を抑制する可能性が示されました。
  • コレステロール:血清総コレステロール、HDL、LDLレベルがすべて有意に低下しました。

研究結論

研究によると、植物性全食品食事は転移性乳がん患者の血清アミノ酸レベル、特に必須アミノ酸と非必須アミノ酸を有意に低下させることができます。この食事法はカロリーと脂肪の摂取を減らすだけでなく、インスリンやIGFなどの腫瘍成長促進因子のレベルも低下させます。研究結果は、食事介入を通じてがん患者のアミノ酸レベルを制限するための実行可能な臨床戦略を提供し、食事と腫瘍進行の関係を探るための基盤を築きました。

研究のハイライト

  1. 革新的な食事介入:研究は初めて転移性乳がん患者において、植物性全食品食事が血清アミノ酸レベルに及ぼす影響を体系的に評価しました。
  2. 多角的なデータ分析:食事記録と血清メタボロミクス分析を通じて、食事介入が患者の代謝に及ぼす影響を包括的に評価しました。
  3. 臨床的実現可能性:植物性全食品食事が臨床現場で高い実現性と患者の受容性を持つことが示されました。

研究の意義

この研究は、食事介入を通じて腫瘍成長を制限する潜在的な戦略をがん患者に提供するだけでなく、代謝的脆弱性に基づくがん治療法の開発に向けた新たな視点を提供します。さらに、研究結果は植物性食事ががん患者の代謝健康を改善する上で積極的な役割を果たすことを支持し、重要な臨床的価値を持っています。