高品質がんケアの提供:10年後の新たな戦略と課題

高品質がんケアの10年後:危機にあるシステムと新たな道筋

学術的背景

2012年、米国科学アカデミー、工学アカデミー、医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, NASEM)は、米国におけるがんケアの質を改善するための委員会を設立し、診断から終末期ケアまでの改善策を政策立案者やがんケアコミュニティに提供することを目的としました。2013年、この委員会は『高品質がんケア:危機にあるシステムと新たな道筋』と題する報告書を発表し、6つの相互に関連するケアコンポーネントを含む概念フレームワークとそれに対応する提言を提示しました。しかし、過去10年間で、高品質ながんケアの提供はより複雑になり、医療従事者への要求も高まっています。本稿では、2013年の報告書で提唱された目標と提言を振り返り、これまでの進展を説明し、今後高品質ながんケアを実現するために必要な取り組みや新たな戦略について考察します。

論文の出典

本稿は、Larissa Nekhlyudov(ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院)、Laura A. Levit(米国臨床腫瘍学会)、Patricia A. Ganz(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)によって共同執筆され、2024年10月2日に『Journal of Clinical Oncology』に掲載されました。

主な内容

1. 患者の関与

高品質ながんケアの核心は、患者をケアの中心に置き、彼らのニーズ、価値観、嗜好に合った医療決定を支援することです。2013年のNASEM報告書は、がんケアチームが患者とその家族に、がんの予後、治療の利点とリスク、緩和ケア、心理的サポート、およびがんケアの総費用と自己負担額について理解しやすい情報を提供することを強調しました。これらの提言は、2016年から2022年に実施された腫瘍ケアモデル(Oncology Care Model, OCM)で部分的に採用されましたが、このモデルはコストと医療利用の改善において限定的な成果しか上げられませんでした。それでも、患者と医療専門家の経験は肯定的であり、CMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)はOCMの教訓を基にした新しい実験的支払いモデルである「強化腫瘍モデル」(Enhancing Oncology Model, EOM)を導入しています。

2. 十分に配置され、訓練され、調整された医療チーム

2013年のNASEM報告書は、患者のニーズ、価値観、嗜好に合致し、患者の非がんケアチームや介護者と調整された、専門的ながんケアチームを開発する必要性を強調しました。いくつかの組織がコミュニケーショントレーニングプログラムを開発していますが、その範囲と実施はまだ限られています。さらに、腫瘍看護協会(Oncology Nursing Society)は最近、緩和ケアとホスピス教育・訓練法(Palliative Care and Hospice Education and Training Act)を支持し、医療専門家のトレーニングを向上させるための政府資金を提供することを目指していますが、この法案はまだ議会を通過していません。

3. エビデンスに基づくがんケア

2013年のNASEM報告書は、特に高齢者や複数の併存疾患を持つ患者のデータ収集において、がん治療のエビデンス基盤に持続的なギャップがあることを指摘しました。FDA、ASCO、NCIなどの機関は、高齢患者の臨床試験参加を改善するためのいくつかの取り組みを行っていますが、高齢者の臨床試験における代表性は依然として不足しています。さらに、FDAが最近発表した「食品医薬品包括改革法」(Food and Drug Omnibus Reform Act, FDORA)は、臨床試験のスポンサーが代表的な患者集団のデータを生成するために多様性行動計画を提出することを義務付けています。

4. 学習型医療情報技術システム

NASEM委員会は、医療システム自体を研究室として活用し、リアルタイムでデータを分析して迅速に適用する可能性を認識しました。電子健康記録(EHRs)やがんデータリポジトリの進展はありますが、学習型医療システムの完全なビジョンはまだ実現されていません。今後の取り組みには商業団体の投資が必要であり、人工知能や機械学習が臨床ケアと研究において重要な役割を果たすことが期待されます。

5. エビデンスの臨床実践への変換、品質測定、パフォーマンス改善

2013年のNASEM委員会は、がんケアの品質測定を公表するための長期的な戦略を策定し、実施することを推奨しましたが、この目標はまだ達成されていません。ASCOは最近、ASCO認定プログラムを立ち上げ、ケアの品質を測定するための一連の基準を提供し、継続的な評価と品質改善プロジェクトを実施することを奨励しています。しかし、このプログラムはまだ初期段階にあり、その目標を達成しているかどうかを評価する必要があります。

6. アクセス可能で負担可能ながんケア

「患者保護・医療費負担適正化法」(Affordable Care Act, ACA)は、がん患者のアクセスと負担能力を改善する上で重要な進展をもたらしましたが、がんケアのアクセスと負担能力は依然として問題です。NASEM委員会は、脆弱で十分なサービスを受けていない人々のがんケアにおける格差を減らすための取り組みを続ける必要性を強調しました。最近可決されたCMS 2024年メディケア医師料金表最終規則により、患者ナビゲーションサービスの請求と償還が可能になり、ケアの格差を減らす可能性があります。

結論

2013年のNASEM報告書は、高齢化社会とますます分散化する医療システムの課題に対応する、患者中心のがんケアシステムを展望する先見性と野心的なものでした。過去10年間で、いくつかの組織やイニシアチブが医療システムの改善に取り組んできましたが、これらの努力はほとんどが漸進的であり、がんケアの大幅な改善には至っていません。今後、すべてのがん患者が高品質のケアを受けられるよう、さらなる努力が必要です。

ハイライト

本稿は、2013年のNASEM報告書で提唱された目標と提言を振り返り、これまでの進展を説明し、今後高品質ながんケアを実現するために必要な取り組みや新たな戦略について考察しています。患者の関与、医療チームのトレーニング、エビデンスに基づくケア、学習型医療情報技術システム、品質測定とパフォーマンス改善、アクセス可能で負担可能ながんケアの重要性が強調されています。過去10年間でいくつかの進展がありましたが、高品質ながんケアを実現するためにはさらなる努力が必要です。