異なる筋肉伸長振幅と電気神経刺激を組み合わせたトルク生成への影響

筋伸長と電気神経刺激がトルク生成に及ぼす影響

学術的背景

リハビリテーションやトレーニングプログラムにおいて、神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation, NMES)は骨格筋機能を強化する効果的な方法です。しかし、従来の高強度NMESは高いトルクを生み出す一方で、明らかな不快感を伴うことがあります。近年、広パルス低強度のNMES(Wide-Pulse NMES)が代替案として注目されており、低強度刺激で高いトルクを発生させることができ、不快感も少ないとされています。しかし、特に異なる周波数や筋伸長の振幅下でのNMESのトルク出力をさらに最適化する方法については、まだ研究の余地があります。

本研究は、広パルスNMESと異なる振幅の筋伸長を組み合わせた場合のトルク生成への影響を探ることを目的としています。具体的には、NMESと筋伸長を組み合わせることでトルク出力をさらに最適化し、その神経的および筋的なメカニズムを探求することを目指しています。この研究は、NMESの作用メカニズムを理解するだけでなく、リハビリテーションやトレーニングにおける新たな戦略を提供する可能性があります。

論文の出典

本論文は、Antoine Pineau、Alain Martin、Romuald Lepers、およびMaria Papaiordanidouによって共同執筆されました。彼らはフランスのブルゴーニュ大学のInserm UMR1093-CAPS研究所に所属しています。この論文は2024年12月6日に『Journal of Neurophysiology』に初めて掲載され、DOIは10.1152/jn.00383.2024です。

研究の流れ

研究対象と実験デザイン

研究には15名の健康なボランティア(女性4名、平均年齢30.1歳)が参加し、全員が過去3ヶ月間に右下肢に損傷のない活動的な個人でした。実験は主に2つの部分に分かれており、低周波数(20 Hz)と高周波数(100 Hz)のNMES刺激が行われました。各周波数において、単独のNMES、NMESと10度の足関節回転を組み合わせた条件(NMES + Len10)、およびNMESと20度の足関節回転を組み合わせた条件(NMES + Len20)の3つの条件が設定されました。

実験手順

  1. ウォームアップと最大随意収縮(MVC)テスト:参加者はまず、右足底屈筋の8〜10回のサブマキシマル随意収縮を含む標準化されたウォームアップを行いました。その後、参加者は少なくとも3回のMVCテストを行い、テスト結果の安定性を確保しました。

  2. NMES刺激:安静状態で、後脛骨神経に広パルスNMES刺激を適用し、パルス幅は1ミリ秒、刺激強度はMVCの5〜10%でした。刺激周波数はそれぞれ20 Hzと100 Hzで、各周波数において12回の15秒間の刺激トレーニングが行われ、各トレーニング間には2分間の休息が設けられました。

  3. 筋伸長:NMES + Len10およびNMES + Len20条件では、足関節をそれぞれ90度と100度の初期位置から80度の基準位置まで回転させ、回転速度は300度/秒でした。伸長は刺激開始後3秒に行われ、その後12秒間伸長状態を維持しました。

  4. データ収集:表面電極を使用して右足の三頭筋(ヒラメ筋、腓腹筋外側頭、および腓腹筋内側頭)の筋電図(EMG)活動を記録し、等速性ダイナモメーターを使用してトルクデータを記録しました。

データ分析

  1. トルク時間積分(TTI):各条件における15秒間の刺激トレーニング中のトルク時間積分を計算し、トルク出力を評価しました。

  2. 持続的EMG活動:刺激終了後、500ミリ秒間のEMGの二乗平均平方根(RMS)値を計算し、MVC中のEMG RMS値と比較して、持続的な神経活動を評価しました。

  3. 追加トルク現象:実際のTTIと理論的なTTI(刺激開始後1秒のトルク値に基づいて計算)を比較し、追加トルク現象の存在を評価しました。

主な結果

低周波数NMES(20 Hz)

低周波数NMES条件下では、NMES + Len10およびNMES + Len20のTTIは、単独のNMES条件よりも有意に高かった(それぞれ233.2 ± 101.5 N·sおよび229.2 ± 92.1 N·s vs. 187.5 ± 74.5 N·s)。しかし、持続的EMG活動は各条件間で有意な差はなく、トルクの増加は筋メカニズムに関連している可能性が示唆されました。

高周波数NMES(100 Hz)

高周波数NMES条件下では、NMES + Len10のTTIは単独のNMES条件よりも有意に高かった(226.6 ± 115.3 N·s vs. 173.9 ± 94.9 N·s)が、NMES + Len20のTTIは単独のNMES条件と有意な差はありませんでした。さらに、NMES + Len10条件下での持続的EMG活動はNMES + Len20条件よりも有意に高く、高周波数NMESにおいて神経メカニズムが重要な役割を果たしていることが示されました。

結論

本研究は、広パルス低周波数NMESと筋伸長を組み合わせることでトルク出力を有意に増加させることができ、この増加は筋メカニズムの強化に関連していることを示しました。一方、高周波数NMES条件下では、10度の筋伸長のみがトルク出力を有意に増加させ、この増加は持続的な神経活動を伴うことから、神経メカニズムが高周波数NMESにおいて重要な役割を果たしていることが示されました。しかし、伸長振幅を増加させる(20度)ことでさらにトルクが増加することはなく、これはシナプス前抑制メカニズムによるものと考えられます。

研究のハイライト

  1. トルク増強メカニズム:本研究は初めて、広パルスNMESと異なる振幅の筋伸長を組み合わせた場合のトルク生成への影響を体系的に探求し、低周波数と高周波数NMES下での異なるトルク増強メカニズムを明らかにしました。

  2. 神経と筋メカニズムの区別:持続的EMG活動を分析することで、トルク増強における神経メカニズムと筋メカニズムの役割を区別することに成功しました。

  3. 応用価値:この研究結果は、特にNMES刺激パラメータの最適化と筋伸長の組み合わせにおいて、リハビリテーションやトレーニングにおける新たな戦略を提供する重要な応用価値を持っています。

その他の価値ある情報

研究チームは、データの可用性に関する声明も提供しており、ソースデータは合理的な要求に応じて対応著者に提供されるとしています。さらに、この研究はフランスの高等教育・研究・イノベーション省の支援を受けており、著者らは利益相反がないことを宣言しています。


本研究を通じて、NMESと筋伸長を組み合わせた場合のトルク増強メカニズムを深く理解することができ、今後のリハビリテーションやトレーニング戦略に新たな視点を提供することができました。この研究は、神経生理学と運動科学の分野において重要な理論的および実践的意義を持っています。