SOX4を介したESM1の標的化がPI3K/AKTシグナル経路を通じて乳児血管腫の進行を促進する

乳児血管腫(Infantile Hemangioma, IH)は、小児において最も一般的な良性血管腫瘍であり、発症率は約4~10%です。大多数のIH症例は自然に消退しますが、一部の症例では永続的な色素沈着、線維組織の蓄積、瘢痕形成を引き起こし、小児の外見や生活の質に影響を与えることがあります。さらに、出血、疼痛、感染、潰瘍を伴うIH症例もあり、臓器不全、視力障害、関節の可動域制限、呼吸困難などの重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。そのため、IHの発症メカニズムを深く研究し、新しい治療ターゲットを見つけることは、臨床的に重要な意義を持ちます。

SOX4はSOX遺伝子ファミリーの一員であり、重要な転写因子として腫瘍血管新生において重要な役割を果たします。研究によると、SOX4はさまざまな悪性腫瘍で高発現し、PI3K/AKTなどのシグナル経路を調節することで腫瘍の進行を促進します。しかし、SOX4がIHにおいて果たす役割のメカニズムはまだ完全には解明されていません。そこで、本研究はSOX4がIHの発展において果たす機能とその潜在的なメカニズムを探ることを目的としており、IHの治療に新たなターゲットを提供することを目指しています。

論文の出典

本論文はYanan Li、Meng Kong、Tong Qiu、Yi Jiによって共同執筆され、研究チームは四川大学華西医院小児外科腫瘍科と山東大学附属小児病院小児外科に所属しています。論文は2024年10月9日に『Precision Clinical Medicine』誌に掲載され、DOIは10.1093/pcmedi/pbae026です。

研究の流れと結果

1. SOX4のIH組織における発現とその機能研究

研究チームはまずRNAシーケンス(RNA-seq)を用いてIH微小腫瘍中の転写因子をスクリーニングし、SOX4がIHと密接に関連していることを発見し、IH組織でその結果を検証しました。その結果、SOX4はIH組織で高発現しており、特に増殖期のIH組織では、そのmRNAおよびタンパク質レベルが消退期組織よりも顕著に高いことが示されました。免疫組織化学(IHC)および免疫蛍光(IF)実験により、SOX4が主に細胞核に局在し、増殖期のIH組織でより強く発現していることがさらに確認されました。

次に、研究チームはin vitro細胞実験を通じて、SOX4がCD31+血管腫由来内皮細胞(HemECs)の生物学的挙動に及ぼす影響を研究しました。実験の結果、SOX4はHemECsの増殖、移動、および血管新生を促進することが示されました。さらに、RNA-seq分析により、SOX4が低発現しているHemECsでは、内皮細胞特異的分子1(Endothelial Cell-Specific Molecule 1, ESM1)がその下流の標的遺伝子であることが明らかになりました。3D微小腫瘍および動物実験を通じて、研究チームはSOX4とESM1が腫瘍の進行を独立して促進することをさらに確認しました。

2. SOX4はPI3K/AKTシグナル経路を介してESM1の発現を調節する

研究チームはデータベース予測およびクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)実験を通じて、SOX4がESM1のプロモーター領域に直接結合することを確認しました。実験の結果、SOX4はESM1のプロモーターに結合することでPI3K/AKTシグナル経路を活性化し、HemECsの移動および血管新生を促進することが示されました。さらに、活性化されたPI3K/AKTシグナル経路はIHのバイオマーカーであるGLUT-1の発現をアップレギュレーションし、細胞増殖を促進し、最終的にIHの進行を駆動することが明らかになりました。

3. ESM1のIH進行における役割

研究チームはさらにESM1がIHの進行において果たす役割を研究しました。その結果、ESM1は増殖期のIH組織で消退期組織よりも顕著に高発現しており、SOX4の発現と正の相関を示すことが明らかになりました。ESM1 siRNAおよび過発現プラスミドをトランスフェクションした結果、ESM1の低発現はHemECsの増殖、移動、および血管新生を有意に抑制し、ESM1の過発現はこれらの生物学的挙動を促進することが示されました。さらに、ESM1はPI3K/AKTシグナル経路を活性化することでIHの進行を促進することが明らかになりました。

4. SOX4-ESM1シグナル軸のIH進行における役割

SOX4-ESM1シグナル軸がIHの進行において果たす役割をさらに検証するため、研究チームはヌードマウスを用いた皮下腫瘍形成実験を行いました。その結果、SOX4の低発現は腫瘍の成長を有意に抑制し、ESM1の過発現は腫瘍の成長を促進することが明らかになりました。同時に、SOX4の低発現とESM1の過発現を組み合わせることで、腫瘍の成長が部分的に回復することが示されました。免疫組織化学分析の結果、SOX4低発現群の腫瘍組織では微小血管密度(MVD)が有意に低下し、ESM1過発現群では有意に増加することが明らかになりました。これらの結果は、SOX4がESM1の発現を調節することでIHの進行を促進することを示しています。

結論と意義

本研究は、SOX4がIHの進行において重要な役割を果たし、SOX4/ESM1軸がIHの新たなバイオマーカーおよび潜在的な治療ターゲットとなり得ることを明らかにしました。研究は、SOX4がPI3K/AKTシグナル経路を活性化し、ESM1の発現を調節することで、IHの血管新生および腫瘍進行を促進する分子メカニズムを解明しました。この発見は、IHの治療に新たな視点とターゲットを提供し、科学的および臨床的に重要な価値を持ちます。

研究のハイライト

  1. SOX4のIHにおける高発現:研究は初めてSOX4がIH組織で高発現し、特に増殖期においてその重要な役割を示唆しました。
  2. SOX4-ESM1シグナル軸の発見:研究はSOX4がESM1の発現を調節し、PI3K/AKTシグナル経路を活性化することでIHの進行を促進する分子メカニズムを明らかにしました。
  3. 新たな治療ターゲットの提案:SOX4/ESM1軸がIHの潜在的な治療ターゲットとして提案され、IHの治療に新たな方向性を提供しました。

その他の価値ある情報

本研究はまた、ESM1と血管内皮増殖因子A(VEGF-A)の間に正のフィードバックループが存在することを発見しました。VEGF-Aは、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)のリン酸化および活性化を介してESM1の発現を刺激し、ESM1はフィブロネクチンに結合したVEGF-Aを置換することで、VEGF-Aの生物学的利用能およびそのシグナル伝達を増加させます。この発見は、血管新生を抑制する新たな戦略を提供し、将来ESM1を標的とすることでIHの進行を制御する可能性を示しています。

今後の研究の方向性

本研究は重要な進展を遂げましたが、いくつかの限界もあります。例えば、臨床データとサンプルは単一のセンターから得られたものであり、サンプルサイズが比較的小さかったです。今後の研究では、サンプルサイズを拡大し、SOX4-ESM1シグナル軸に関連する薬物(例:阻害剤)がIHの進行に及ぼす影響を探る予定です。さらに、遺伝子編集やバイオプリンティングなどの新技術を統合することで、SOX4-ESM1軸の標的治療に新たな視点とツールを提供する可能性があります。