動的多次元単一細胞プロファイリングによる拡散性大細胞型B細胞リンパ腫における臨床的に有効なCAR T細胞サブセットの同定
動的な単一細胞解析を用いて臨床的に有効な移植抗原受容体T細胞サブセットを発見し、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療に利用する
研究背景
移植抗原受容体(CAR)T細胞療法は、B細胞悪性腫瘍を治療する有効な方法であることが実証されている。しかし、現在のところ、個人のCART細胞療法に対する臨床反応を予測することは難しい。機能と分子タイピングを統合することで、CART細胞治療効果に関連する細胞特性を明らかにし、この治療法の発展と応用を促進できる可能性がある。
研究機関と発表雑誌
この研究はヒューストン大学、Kite生物医薬会社、テキサス小児病院ベイラー医学院、テキサス大学MDアンダーソン癌センターなどの研究機関の研究者が協力して行われた。論文は「ネイチャー-癌」誌に掲載されている。
研究方法と主な発見
研究者は、時間遅延イメージング顕微鏡によりCARTセルと腫瘍細胞の動的相互作用を測定し、サブ細胞レベルの分子表現型と単一細胞RNAシーケンシングデータを統合して、16例のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者に投与されたCART細胞製品に対し、多次元の単一細胞解析を行った。その結果、以下のことが分かった。
1) 完全寛解患者のCART細胞には、CD8+T細胞サブセット(CD8-fitT細胞と呼ばれる)が濃縮されていた。
2) CD8-fitT細胞には、遊走能力、腫瘍細胞を連続的に殺傷する能力、適度のミトコンドリアとリソソーム体積があった。
3) 単一細胞RNAシーケンシングデータでは、CD8-fitT細胞に殺傷関連遺伝子、細胞運動関連遺伝子、代謝関連経路(PGC1αパスウェイなど)の発現プロファイルが濃縮されていた。
4) CD8-fitT細胞サブセットは、臨床的緩解反応、腫瘍浸潤と増殖に関連しており、他のデータセットでも検証された。
5) 遊走能力のあるCART細胞を選択的に濃縮すると、CD8-fitT細胞の割合が増え、生体内の抗腫瘍活性が高まった。
6) AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を阻害すると、T細胞の遊走能力と機能が低下したことから、AMPKがCD8-fitT細胞を制御する重要な役割を果たしていることが示唆された。
研究の意義
本研究では、多次元の単一細胞解析手法を用いて、臨床的効果と関連するCD8-fitT細胞という有効なCART細胞サブセットを発見し、その分子特性と制御機構を明らかにした。この発見は、CART細胞療法製品の最適化と評価を導き、この治療法の発展と応用を促進し、患者により予測可能で持続的な臨床的利益をもたらすことが期待される。