スペックル照明と紫外線励起を用いた高速フルカラー連続切片断層撮影
学術的背景
三次元(3D)高解像度大容量イメージングは、生物医学分野における大きな課題の一つです。従来の二次元(2D)切片イメージングは、組織や細胞の平面形態学的情報を提供できますが、内部の三次元構造情報を包括的に示すことはできません。これは、がん診断や胚発生研究において重要です。従来の3D組織学的手法は、通常、数千枚の薄片を手動で切断し染色する必要があり、時間がかかり、労力も大きいです。さらに、異なる切片間の空間情報を復元するために、複雑な画像登録アルゴリズムが必要です。これらの問題を解決するために、近年、組織透明化技術やブロックフェイス連続切片断層撮影(BSST)技術など、さまざまな自動化された3D光学イメージング技術が登場しています。
しかし、既存の3Dイメージング技術にはいくつかの限界があります。例えば、組織透明化技術は、透明効果と時間のバランスを取る必要があり、組織の劣化を防ぐ必要があります。一方、BSSTシステムは整列した画像を生成できますが、特に多色イメージングの場合、その全体的な複雑さが高くなります。さらに、多くのBSSTシステムでは、サンプル全体を染色し、樹脂やパラフィンなどの硬質材料に埋め込む必要があり、これにより時間とコストが増加し、組織の脱水収縮が引き起こされます。
これらの問題を解決するために、香港科技大学のWentao Yu、Yan Zhang、Claudia T. K. Lo、Lei Kang、Terence T. W. Wongのチームは、HILOTRUSTという新しい3Dイメージング技術を開発しました。この技術は、高-低周波数(HILO)顕微鏡と紫外線(UV)励起を組み合わせることで、高解像度を維持しながら、高速で低コストの全臓器サブセルイメージングを実現します。
研究内容とワークフロー
研究背景と目的
HILOTRUST技術は、チームが以前に開発したTRUST(Translational Rapid Ultraviolet-Excited Sectioning Tomography)技術をさらに最適化したものです。TRUST技術は、紫外線表面励起とリアルタイム染色により、高速で高解像度の全臓器イメージングを実現しましたが、その軸方向解像度は機械的切片の厚さや紫外線の組織内透過深度に制限されていました。これらの制限を克服するために、HILOTRUSTはHILO顕微鏡を導入し、光学切片の厚さを数十マイクロメートルから約5.8マイクロメートルに削減し、機械的切片の厚さを50マイクロメートルから10-15マイクロメートルに減少させました。
実験設計と方法
1. 全色HILO顕微鏡の構築
HILOTRUSTシステムの核心は、全色HILO顕微鏡です。この顕微鏡は、散斑照明と均一照明の2つの照明モードを使用してイメージングを行います。散斑照明モードでは、532ナノメートルの緑色レーザーダイオード(LD)を使用して散斑パターンを生成し、細胞核中の蛍光信号を励起します。均一照明モードでは、2つの深紫外LED(UV-LED)を使用して均一照明を行い、標識された色素と内生組織成分の蛍光信号を励起します。これら2つのモードを組み合わせることで、HILOTRUSTは全色イメージングを実現し、画像コントラストを大幅に向上させます。
2. HILOTRUSTシステムの構築
HILOTRUSTシステムは、全色HILO顕微鏡を三軸電動ステージとバイブレートームに統合しています。イメージングプロセス中、サンプルはまず電動ステージによってX-Y平面でラスタースキャンされ、その後バイブレートームによって機械的に切片されます。各イメージング後、システムは自動的にイメージングされた組織層を除去し、次の層を露出させてイメージングを行います。このプロセスは完全に自動化されており、手動でのキャリブレーションは不要です。
3. データ処理と3D再構築
HILOTRUSTシステムは、HILO画像処理アルゴリズムを使用して光学切片画像を生成し、直接画像スタッキングによって3D再構築を行います。生成された画像スライスは自然に整列しているため、複雑な画像登録アルゴリズムは必要ありません。
実験結果
1. 全色HILO顕微鏡の検証
研究チームはまず、全色HILO顕微鏡の高内容と光学切片能力を検証しました。マウスの複数の臓器(肺、腎臓、肝臓、脳)に対する2Dイメージングを行った結果、HILO画像は従来の広視野画像に比べてコントラストが大幅に向上し、微細な構造をより明確に識別できることがわかりました。
2. 3Dイメージングの検証
研究チームはさらに、マウスの腎臓、肺、肝臓組織ブロックに対して3Dイメージングを行い、TRUST技術のイメージング結果と比較しました。その結果、HILOTRUSTは光学切片能力において顕著な優位性を持ち、より鮮明で詳細な3D画像を生成できることが示されました。特にマウスの肺組織の3D再構築では、HILOTRUSTは肺胞や弾性線維の分布をより正確に示すことができました。
3. 臨床応用の可能性
HILOTRUSTの臨床応用の可能性を検証するために、研究チームは2例のヒト肺がんサンプルに対してイメージングを行いました。その結果、HILOTRUSTは画像コントラストを大幅に向上させ、弾性線維などの構造をより容易に識別できることが示されました。さらに、HILOTRUSTの全色イメージング能力により、コラーゲン線維とがん細胞の3D分布関係を抽出することができ、がん研究における潜在的な応用価値を示しました。
結論と意義
HILOTRUST技術は、HILO顕微鏡と紫外線励起を組み合わせることで、高解像度で全色の3Dイメージングを実現し、時間効率とコスト効率の面で顕著な利点を持っています。この技術は、3D組織学の応用において大きな可能性を示しており、特にがん診断や胚発生研究の分野で有望です。今後、研究チームはシステムの性能をさらに最適化し、より多くの種類の蛍光色素を探索し、臨床応用の範囲を拡大することを計画しています。
研究のハイライト
- 高解像度と全色イメージング:HILOTRUSTは、HILO顕微鏡と紫外線励起を組み合わせることで、高解像度の全色3Dイメージングを実現し、画像コントラストと詳細な識別能力を大幅に向上させました。
- 時間効率とコスト効率:従来の3Dイメージング技術と比較して、HILOTRUSTは高解像度を維持しながら、イメージング時間とコストを大幅に削減しました。
- 臨床応用の可能性:HILOTRUSTは、ヒト肺がんサンプルのイメージング結果において、がん診断や研究における潜在的な応用価値を示しました。
今後の展望
HILOTRUST技術はすでに大きな進展を遂げていますが、まだ多くの改善の余地があります。例えば、今後はより多くの種類の蛍光色素を探索し、イメージング能力を豊かにすることができます。さらに、深層学習技術を導入することで、イメージング速度と画像品質をさらに向上させることができます。技術の不断の最適化により、HILOTRUSTは生物医学研究や臨床診断においてさらに大きな役割を果たすことが期待されます。