3Tと5Tの心筋遅延造影MRIによる心筋線維症評価:初期結果

5Tと3T心筋遅延造影MRIによる心筋線維化評価の比較研究

学術的背景

心筋線維化は、さまざまな心疾患に共通する病理的特徴であり、その正確な評価は疾患の診断、治療、および予後において重要です。心臓磁気共鳴画像法(Cardiac MRI)は、心筋の構造と機能を評価するための重要な手段であり、特に遅延ガドリニウム増強(Late Gadolinium Enhancement, LGE)技術は、心筋線維化の領域を正確に可視化することができます。LGE技術の原理は、心筋線維化領域における細胞外スペースの拡大と毛細血管密度の低下に基づいており、これによりガドリニウム造影剤が線維化領域に滞留する時間が延長されます。

近年、超高磁場MRI装置が市場に登場し、特に5T MRI装置は、従来の3T MRIと比較して組織コントラストと信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio, SNR)において潜在的な利点を持っています。しかし、超高磁場MRIは心臓画像においても多くの課題に直面しており、磁場の不均一性、RFエネルギーの増加、および磁気流体力学効果による心電図信号の干渉などが挙げられます。したがって、5T MRIが心筋線維化評価においてどの程度有用であるかは未解決の問題です。

研究目的

本研究は、5Tと3T心筋LGE MRIの画像品質とLGE定量分析を比較することにより、5T MRIが心筋線維化評価においてどの程度実用的であるかを評価することを目的としています。

研究方法

研究デザインと参加者

本研究は前向き研究であり、ヘルシンキ宣言に従い、北京協和病院の倫理委員会の承認を得ています。すべての参加者は、研究参加前にインフォームドコンセントを提供しました。研究には、2023年1月から2023年7月の間に3T心臓MRI検査を受け、心筋線維化と診断された患者を対象とし、2023年8月から2023年11月の間に5T MRIによるフォローアップ検査を行いました。除外基準は、MRIの禁忌(金属インプラントなど)または研究参加を拒否した患者です。各参加者は、同じ用量のガドリニウム造影剤を投与されました。

心筋LGE MRI検査

参加者はまず3T MRI装置(Siemens Healthineers Magnetom Skyra)で検査を受け、18チャンネルのボディマトリックスコイルと32チャンネルのスパインアレイコイルを使用しました。その後、5T MRI装置(United Imaging Healthcare UMR Jupiter)で検査を受け、8チャンネルのボリューム送信コイルと24チャンネルのボディ受信コイル、および48チャンネルのスパイン受信コイルの上半分を使用しました。すべてのシーケンスは心電図同期で行われ、息止め状態で実施されました。LGE画像は、ガドペンテト酸メグルミン(0.15 mmol/kg)静脈内投与10分後に、長軸および短軸ビューの位相反転回復グラディエントエコーパルスシーケンスを使用して取得されました。

画像品質評価

LGE画像は、3人の放射線科医(それぞれ4年、12年、19年の心臓MRI経験を持つ)によって独立して評価され、リッカート尺度(1-5点)を使用して画像品質をスコアリングしました。さらに、LGE領域、正常心筋、左心室腔、および心膜脂肪の信号強度を測定し、信号対雑音比(SNR)とコントラスト対雑音比(Contrast-to-Noise Ratio, CNR)を計算しました。

LGE定量分析

LGEの定量分析は、専用ソフトウェア(CVI42, version 5.12)を使用して行われ、LGE領域が左心室に占める割合を計算しました。

統計分析

SPSSソフトウェア(version 26)を使用して統計分析を行いました。正規分布データは平均値と標準偏差で表し、非正規分布データは中央値と四分位範囲で表しました。連続変数の比較には、対応のあるt検定とWilcoxonの符号順位検定を使用しました。Bland-Altman分析を使用して、SNRとCNRの場間一致を評価しました。

研究結果

参加者の特徴

研究には最終的に18名の参加者(平均年齢49歳±17、男性9名、女性9名)が含まれ、3Tと5T MRI検査の平均間隔は6.2ヶ月±2.3でした。

安全性評価

すべての参加者の比吸収率(Specific Absorption Rate, SAR)値は、国際電気標準会議規格60601-2-33の制限値を超えませんでした。1人の患者が検査の初期に呼吸困難を訴え、検査を完了できませんでしたが、その他の参加者はMRIに関連する副作用を報告しませんでした。

画像品質

5Tと3T MRIの画像品質スコアの中央値はともに4.0(p = 0.45)であり、主観的な画像品質に有意差はありませんでした。5T MRIのSNRは3T MRIよりも有意に高く(中央値はそれぞれ183.7と125.8、p = 0.002)、正常心筋と心膜脂肪のCNRも5T MRIで有意に高くなりました(p < 0.001)。

LGE定量分析

5Tと3T MRIのLGE定量分析には有意差はなく(中央値はそれぞれ11.8%と12.6%、p = 0.81)、両者の間には優れた相関関係がありました(r = 0.98、p < 0.001)。

考察

本研究は、5T心筋LGE MRIの性能を初めて評価し、3T MRIと比較しました。研究結果は、5T MRIが画像品質とLGE定量分析において3T MRIと同等であり、SNRとCNRが大幅に向上していることを示しています。この発見は、5T MRIが心筋線維化評価において臨床的に有用であることを示す最初の証拠を提供します。

超高磁場MRIの心臓画像における利点は、主にSNRとCNRの向上にあり、これにより空間分解能の向上や撮影時間の短縮、呼吸および心臓運動アーチファクトの低減が可能となります。さらに、5T MRIは心膜脂肪などの複雑な構造を表示する際に高いコントラストを提供し、心筋線維化検出の精度と再現性を向上させる可能性があります。

しかし、本研究にはいくつかの限界があります。例えば、単一施設での研究、サンプルサイズが小さいこと、3Tと5T MRI検査の間に時間差があることなどです。今後は、より大きなサンプルサイズとランダム化された検査順序を用いた研究で、5T MRIの性能をさらに検証する必要があります。

結論

5T心筋LGE MRIは、心筋線維化評価において実用的であり、画像品質と定量分析において3T MRIと同等であり、SNRとCNRが大幅に向上しています。この研究は、5T MRIが心臓画像において臨床的に有用であることを示す重要な証拠を提供します。

研究のハイライト

  1. 重要な発見:5T MRIは、心筋線維化評価において3T MRIと同等の画像品質と定量分析能力を示し、SNRとCNRが大幅に向上しています。
  2. 問題の意義:本研究は、超高磁場MRIが心臓画像においてどの程度有用であるかという問題を解決し、その臨床応用の可能性を示す最初の証拠を提供します。
  3. 方法の革新:研究は前向きデザインを採用し、厳密な画像品質評価と定量分析を通じて結果の信頼性を確保しました。
  4. 研究対象の特殊性:研究は心筋線維化患者に焦点を当て、この特定の集団における画像評価の新しい技術的選択肢を提供します。

研究の価値

本研究の科学的価値は、5T MRIの性能を初めて体系的に評価し、心臓画像におけるその臨床応用の可能性を示した点にあります。応用的価値は、5T MRIが画像品質の向上、検査時間の短縮、および造影剤用量の低減において持つ潜在的な利点にあり、将来的に心臓MRIの重要な技術的選択肢となる可能性があります。