発酵野菜が腸内細菌叢に及ぼす影響と心血管疾患予防への効果
近年、腸内細菌叢の健康と疾病における役割が広く注目されています。研究によると、腸内細菌叢の多様性と組成は心血管疾患(CVD)の発症と進行と密接に関連しています。心血管疾患は世界的に死亡の主要な原因の一つであり、炎症はその発症メカニズムにおいて重要な役割を果たしています。腸内細菌叢は、炎症反応の調節や代謝産物の生成などを通じて、心血管の健康に深い影響を与える可能性があります。発酵野菜(Fermented Vegetables, FVs)はプロバイオティクスを豊富に含み、腸内細菌叢を改善することで炎症レベルを低下させ、心血管疾患を予防する可能性があると考えられています。しかし、発酵野菜が腸内細菌叢や炎症マーカーに与える影響、特に心血管疾患のリスクが高い人々への影響に関する研究はまだ限られています。そこで、本研究は、定期的な発酵野菜の摂取が心血管疾患リスクの高い成人の炎症マーカーと腸内細菌叢の組成に及ぼす影響を探ることを目的としています。
論文の出典
本研究は、Melissa Baron、Bin Zuo、Jianmin Chai、Jiangchao Zhao、Alireza Jahan-Mihan、Judy Ochrietor、Andrea Y. Arikawaによって共同で行われました。著者は、University of North Florida、University of Arkansas、University of Foshanなどの機関に所属しています。論文は2024年4月10日に受理され、『Gut Microbiome』誌に掲載されました。論文のタイトルは「The effects of fermented vegetables on the gut microbiota for prevention of cardiovascular disease」です。
研究の流れ
研究デザイン
本研究はランダム化比較臨床試験で、35歳から64歳までの心血管疾患リスク因子を少なくとも一つ持つ成人87名を募集しました。参加者は無作為に2つのグループに分けられました:発酵野菜グループ(FVグループ)と通常食グループ(UDグループ)。FVグループは、1日100グラムの発酵野菜を週に少なくとも5日間、8週間摂取しました。UDグループは通常の食事を維持しました。研究の開始時と終了時に、参加者の血液と便のサンプルを採取しました。
データ収集と分析
研究では、アンケート調査、生物学的サンプルの収集、実験室分析など、さまざまな方法でデータを収集しました。具体的な流れは以下の通りです:
- アンケート調査:参加者は、食習慣、健康状態、ライフスタイルなどに関するアンケートに回答しました。これには、食事頻度質問票(DHQ-3)と24時間食事回想質問票が含まれます。
- 生物学的サンプル収集:研究の開始時と終了時に、参加者の血液と便のサンプルを採取しました。便サンプルは3日間にわたり3回採取し、データの代表性を確保しました。
- 実験室分析:血液サンプルは、C反応性蛋白(CRP)、酸化低密度リポ蛋白受容体1(LOX-1)、アンジオポエチン様蛋白4(ANGPTL4)、トリメチルアミンオキシド(TMAO)、リポ多糖結合蛋白(LBP)などの炎症マーカーを測定するために使用されました。便サンプルは、16S rRNAシーケンシングを用いて腸内細菌叢の組成と多様性を分析しました。
データ分析
研究では、独立サンプルt検定、共分散分析(ANCOVA)、線形判別分析(LEfSe)など、さまざまな統計手法を使用してデータを分析しました。QIIME2ソフトウェアを使用して16S rRNAシーケンシングデータを処理し、α多様性(Shannon指数と観察されたASVs)とβ多様性(Bray-Curtis指数とJaccard指数)を計算しました。
主な結果
炎症マーカー
研究結果によると、FVグループとUDグループの間で、炎症マーカー(CRP、LOX-1、ANGPTL4、TMAO、LBP)に有意な差は見られませんでした。これは、1日100グラムの発酵野菜を8週間摂取しても、心血管疾患リスクの高い成人の炎症レベルを有意に変化させないことを示しています。
腸内細菌叢の多様性
腸内細菌叢の多様性に関しては、FVグループとUDグループの間でα多様性(Shannon指数と観察されたASVs)に有意な差は見られませんでした。しかし、β多様性の分析では、2つのグループ間で細菌叢の組成に有意な差が見られました(p = 0.004)。LEfSe分析では、FVグループで介入後に特定の細菌群の相対的な豊度が変化したことが示されました。例えば、ラクトバチルス科(Lactobacillaceae)やラクノスピラ科(Lachnospiraceae)の細菌群が増加し、ファエカリバクテリウム属(Faecalibacterium)などの細菌群の豊度が減少しました。
腸内細菌叢の代謝
本研究では、腸内細菌叢の代謝産物を直接測定しませんでしたが、FVグループにおける特定の細菌群の変化が短鎖脂肪酸(SCFAs)の生成に影響を与え、腸の健康や炎症反応に潜在的な影響を及ぼした可能性が推測されます。
結論
本研究では、1日100グラムの発酵野菜を8週間摂取しても、心血管疾患リスクの高い成人の炎症マーカーや腸内細菌叢のα多様性を有意に変化させないことが明らかになりました。しかし、β多様性の分析では、発酵野菜の摂取が腸内細菌叢の組成に一定の影響を与えることが示されました。これは、発酵野菜が特定の細菌群の豊度を変化させることで腸の健康に影響を与える可能性があることを示唆していますが、炎症や心血管疾患に対する直接的な保護効果についてはさらなる研究が必要です。
研究のハイライト
- 研究対象の特殊性:本研究は、心血管疾患リスクの高い人々に焦点を当て、発酵野菜がこのグループに及ぼす影響に関する空白を埋めました。
- 多面的なデータ収集:研究では、アンケート調査、生物学的サンプルの収集、実験室分析など、多様な方法を用いて、発酵野菜が腸内細菌叢と炎症マーカーに及ぼす影響を包括的に評価しました。
- 高度なデータ分析:研究では、16S rRNAシーケンシングと多様な統計手法を使用し、腸内細菌叢の多様性と組成の変化を詳細に分析しました。
今後の研究の方向性
今後の研究では、発酵野菜の摂取量と期間を増やすことで、炎症や腸内細菌叢への影響をさらに評価することが考えられます。また、メタボロミクス分析を組み合わせることで、発酵野菜が腸内細菌叢の代謝産物に及ぼす影響を探り、その作用メカニズムをより包括的に理解することが重要です。