肺炎クレブシエラ由来の細胞外小胞はSIRT1を抑制することにより内皮機能を損なう

Klebsiella pneumoniae 由来の細胞外小胞はSIRT1を抑制することで内皮機能を損なう

学術的背景

高血圧は世界的な健康問題であり、その発症メカニズムは複雑で、多くの要因が関与しています。近年、腸内細菌叢が高血圧に及ぼす影響が注目されています。研究によると、腸内細菌叢の乱れは高血圧の発症と密接に関連しています。特に、Klebsiella pneumoniae(K.pn、肺炎桿菌)は一般的なグラム陰性菌として知られており、高血圧の発症に関与していることが明らかになっています。しかし、K.pnがどのように内皮機能に影響を与えるか、その具体的なメカニズムはまだ不明です。内皮機能障害は高血圧発症の重要な初期イベントであり、細菌由来の細胞外小胞(Bacterial Extracellular Vesicles, BEVs)は宿主細胞の機能調節において重要な役割を果たしています。したがって、本研究では、K.pn由来の細胞外小胞(K.pn EVs)が内皮機能に及ぼす影響とその潜在的なメカニズムを探ることを目的としています。

論文の出典

本論文は、Xinxin Li、Jinghua Cui、Zanbo Dingらによって共同執筆され、北京安貞医院、首都児童研究所微生物学部などの機関から発表されました。論文は2025年に『Cell Communication and Signaling』誌に掲載され、タイトルは「Klebsiella pneumoniae-derived extracellular vesicles impair endothelial function by inhibiting SIRT1」です。

研究のプロセスと結果

1. K.pnが内皮機能に及ぼす影響

研究ではまず、K.pnがマウスの内皮機能に及ぼす影響を体内実験で評価しました。研究者は、10週齢のC57BL/6マウスにK.pnを経口投与し、4週間継続しました。その結果、K.pnはアセチルコリン(ACh)誘発性の内皮依存性弛緩(Endothelium-Dependent Relaxation, EDR)を著しく減弱させ、内皮細胞中のスーパーオキシドアニオンの生成を増加させました。これらの効果は、ROS阻害剤であるTempolとSIRT1活性化剤であるResveratrolによって逆転され、K.pnが誘発する内皮機能障害は過剰なROS生成と内皮細胞の老化に関連している可能性が示唆されました。

2. K.pn EVsの分離と特性評価

次に、研究者はK.pn培養液から超遠心分離法を用いてK.pn EVsを分離し、透過型電子顕微鏡(TEM)、ナノ粒子追跡分析(NTA)、およびウェスタンブロット法を用いてその特性を評価しました。その結果、K.pn EVsは典型的な球形の形態を持ち、平均直径は約100 nmで、細菌外膜タンパク質OmpAとリポ多糖(LPS)が豊富に含まれていることが明らかになりました。さらに、蛍光標識実験により、K.pn EVsがヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)に取り込まれることが確認されました。

3. K.pn EVsが内皮機能に及ぼす影響

研究者は、体内および体外実験を通じて、K.pn EVsが内皮機能に及ぼす影響を評価しました。その結果、K.pn EVsは内皮依存性弛緩を著しく減弱させ、内皮細胞の老化とスーパーオキシドアニオンの生成を促進しました。さらに、K.pn EVsはマウスの収縮期血圧と拡張期血圧を上昇させました。これらの効果は、ROS阻害剤であるTempolとSIRT1活性化剤であるResveratrolによって逆転されました。

4. K.pn EVsがSIRT1および関連タンパク質に及ぼす影響

K.pn EVsが内皮機能に影響を与えるメカニズムを探るため、研究者は内皮機能、内皮細胞老化、およびROS生成に関連するタンパク質の発現を測定しました。その結果、K.pn EVsはSIRT1とリン酸化内皮型一酸化窒素合成酵素(p-eNOS)の発現を抑制し、p53、エンドセリン-1(ET-1)、NADPHオキシダーゼ-2(NOX2)、およびシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を促進しました。SIRT1の過剰発現または活性化は、K.pn EVsが誘発するこれらのタンパク質変化を逆転させ、内皮機能障害を改善しました。

結論と意義

本研究は、K.pn EVsが内皮機能障害において果たす役割を初めて明らかにし、SIRT1がこのプロセスにおいて重要な役割を担っていることを示しました。研究結果は、K.pn EVsがSIRT1発現を抑制することで、内皮細胞の老化、ROS生成の増加、および内皮機能障害を引き起こし、高血圧の発症を促進する可能性があることを示唆しています。これらの発見は、K.pn関連血管疾患の発症メカニズムを理解するための新たな視点を提供し、関連する臨床介入のための潜在的な治療標的を提示しています。

研究のハイライト

  1. 新規の発見:K.pn EVsが内皮機能障害において果たす役割を初めて明らかにし、SIRT1の重要性を解明しました。
  2. 多層的な実験設計:体内および体外実験を通じて、K.pnおよびK.pn EVsが内皮機能に及ぼす影響を包括的に評価しました。
  3. 潜在的な治療標的:SIRT1の活性化または過剰発現は、K.pn EVsが誘発する内皮機能障害を逆転させ、高血圧治療の新たなアプローチを提供します。

その他の価値ある情報

本研究では、K.pn EVsとEscherichia coli(E. coli)EVsが内皮機能に及ぼす影響を比較し、E. coli EVsは低濃度では内皮機能に顕著な影響を与えないが、高濃度では炎症反応を誘発することが明らかになりました。この発見は、異なる細菌EVsが内皮細胞に及ぼす影響は、その濃度と細胞の反応に依存する可能性があることを示唆しています。

本研究は、K.pn関連血管疾患の発症メカニズムを理解するための新たな視点を提供し、関連する臨床介入のための潜在的な治療標的を提示しています。