肝門部胆管癌の肝内浸潤パターンと範囲——肝臓パノラマデジタル病理学に基づく症例対照研究
肝門部胆管癌の肝内浸潤パターンと範囲に関する研究
学術的背景
肝門部胆管癌(Perihilar Cholangiocarcinoma, PHCC)は胆道系で最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、その治療は根治的手術切除に主に依存しています。しかし、手術技術の進歩にもかかわらず、PHCCの術後再発率は依然として高く、特に原位置および肝内での再発が目立ちます。これは、PHCCの肝内生物学的境界が完全には明確でないことを示しており、根治的手術切除の範囲と効果に影響を与えています。従来の研究では、PHCCの近位胆管浸潤範囲は通常10ミリメートル以内であるとされていますが、それでも術後再発率が高いことから、未だ十分に認識されていない肝内浸潤パターンが存在する可能性が示唆されています。
この問題を解決するため、本研究では全切片デジタル肝臓病理システム(Whole-Mount Digital Liver Pathology System, WDLPS)を使用して、PHCCの肝内浸潤パターンと範囲を全景的に評価し、手術治療と病理研究を指導することを目的としています。
論文の出典
本論文は、北京清華長庚医院肝胆膵センターのShuo Jin、Nan Jiangらを中心とする研究チームによって行われ、中国人民解放軍総医院第五医学センターのJing-Min Zhaoらも参加しています。論文は2024年8月14日にInternational Journal of Surgery誌にオンライン掲載され、タイトルは「Pattern and Extent of Intrahepatic Infiltration of Perihilar Cholangiocarcinoma – A Case–Control Study Based on Liver Panoramic Digital Pathology」です。
研究のプロセスと結果
1. 研究デザインと患者選択
本研究は、2018年4月から2021年12月の間にPHCCと診断され、広範囲肝切除術を受けた62例の患者を対象としました。すべての患者は半肝切除術または三葉切除術に尾状葉切除術を併用しました。研究では、10×10センチメートル以上の肝切除標本をWDLPSで全景評価し、PHCCの肝内浸潤範囲を定量化しました。
2. 病理標本の処理とWDLPSの構築
研究チームは、肝切除標本中の腫瘍とその周囲の肝組織を全景的に表示するためにWDLPSを開発しました。具体的なプロセスは以下の通りです: - 標本処理:手術で切除された肝臓標本は、直ちに血管と胆管を通じて10%中性ホルマリンを注入し、24時間ホルマリンに浸漬しました。 - 切片作成:標本は長軸に沿って連続的に8-10ミリメートルの厚さでスライスし、再度24時間浸漬しました。その後、切片の厚さを4-5ミリメートルに調整し、48時間ホルマリンに浸漬しました。 - デジタルスキャンと分析:Sakura IVS-410スライサーを使用して切片を作成し、H&E染色および免疫組織化学染色を行い、VS200全景デジタルスキャナーでスキャンし、Olyvia分析システムを使用してデジタル測定を行いました。
3. 肝内浸潤範囲の評価
研究では、PHCCの2つの肝内浸潤パターン、すなわち遠位肝内浸潤(Distal Intrahepatic Infiltration, DIHI)と放射状肝浸潤(Radial Liver Invasion, RLI)に焦点を当てました。 - RLIは、浸潤した肝実質から肝門板までの最大直線距離と定義されました。 - DIHIは、主腫瘍の辺縁から1センチメートル以上離れた肝内浸潤と定義されました。
4. 主な研究結果
- RLI:75.8%のPHCC患者にRLIが認められ、すべての患者のRLI距離は15,000マイクロメートル以内でした。そのうち、65.9%の患者のRLI距離は5,000マイクロメートル未満、23.4%の患者は5,000-10,000マイクロメートル、10.6%の患者は10,000-15,000マイクロメートルでした。
- DIHI:62.9%のPHCC患者にDIHIが認められ、DIHIは主に終末門脈領域に位置していました。56.4%の患者のDIHI距離は10,000-20,000マイクロメートル、30.8%の患者は20,000-30,000マイクロメートル、12.8%の患者は30,000マイクロメートルを超えていました。
- 生存分析:DIHIが存在する患者の無再発生存率(RFS)および全生存率(OS)は、DIHIがない患者に比べて有意に低かった(p<0.0001およびp=0.0038)。また、RLIがある患者のRFSとOSも、RLIがない患者に比べて有意に低かった(p=0.037およびp=0.011)。
5. 肝葉浸潤の状況
研究では、62例のPHCC患者から105の肝葉を切除しました。左外側葉、左内側葉、右前葉、および右後葉の浸潤率はそれぞれ79%、100%、100%、および69%でした。DIHIがある患者の肝葉浸潤率は、DIHIがない患者に比べて有意に高かった。
結論と意義
本研究は、DIHIの存在がPHCC患者の生存率低下の重要な要因であることを示し、切除側の動脈浸潤がDIHIの予測因子であることを明らかにしました。肝内浸潤の範囲に基づいて、小範囲肝切除術はPHCCの根治的手術として適しておらず、広範囲肝切除術および肝移植が理想的な根治的治療法であることが示されました。
研究のハイライト
- 革新的な方法:WDLPSの導入により、従来の病理技術の限界を突破し、PHCCの肝内浸潤パターンを全景的に表示し、浸潤範囲を正確に測定することが可能になりました。
- 臨床的意義:研究は、PHCCの手術治療に重要な病理学的根拠を提供し、広範囲肝切除術および肝移植を優先的な根治的手術として支持しています。
- 予後予測:動脈浸潤はDIHIの予測因子として高い特異性と陽性的中率を持ち、手術計画および術後補助療法の指導に役立つ可能性があります。
研究の限界
本研究は従来の病理技術の限界を突破したものの、いくつかの限界があります: - サンプルサイズが小さい:研究は62例の患者のみを対象としており、今後はより多くのセンターからのデータを組み入れて結論を強化する予定です。 - 空間浸潤距離の測定:DIHIは主に終末門脈領域に位置するため、ミリメートル単位のスライスではその空間浸潤距離を完全に再構築できず、一部の情報が失われる可能性があります。
まとめ
本研究は、WDLPSを使用してPHCCの肝内浸潤パターンと範囲を全景的に評価し、DIHIとRLIの重要性を明らかにし、PHCCの手術治療に重要な病理学的根拠を提供しました。研究は、広範囲肝切除術および肝移植をPHCCの根治的治療手段として支持し、術後予後予測のための新しい指標を提供しています。