がん切除術後の合併症が臨床結果に与える影響:多施設研究

胃癌は世界的に頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、手術切除(胃切除術)はその主な治療手段です。最小侵襲手術技術の応用により手術による侵襲は減少しましたが、胃切除術後の合併症発生率は依然として高く、約20~40%に上ります。これらの合併症は患者の回復に影響を与えるだけでなく、医療資源の負担も増加させます。したがって、臨床結果に最も大きな影響を与える合併症を特定し、優先的に取り組むことは、医療資源の最適化と患者の予後改善において重要です。

本研究は、胃癌切除術後の特定の合併症が臨床結果、特にケアのエスカレーション、再手術、入院期間の延長、再入院、および30日死亡率に与える影響を評価することを目的としています。多施設共同の後ろ向き研究を通じて、著者らは世界中の胃癌治療の参考となるデータを提供し、地域ごとの医療システムに応じた改善策を策定することを目指しています。

論文の出典

本論文はSander J. M. van Hootegemらによって執筆され、Erasmus Medical Centre(オランダ)、University Hospital Zürich(スイス)、Seoul National University Cancer Hospital(韓国)など、複数の国際的に有名な医療機関の研究者が参加しています。論文は2025年にBritish Journal of Surgery (BJS)に掲載され、タイトルは《Impact of postoperative complications on clinical outcomes after gastrectomy for cancer: multicentre study》です。

研究の流れ

1. 研究デザイン

本研究は後ろ向きの多施設共同研究であり、2017年から2021年にかけて16か国の43施設で胃切除術を受けた胃癌患者を対象としています。研究の主な目的は、術後合併症が臨床結果(ケアのエスカレーション、再手術、入院期間の延長、再入院、および30日死亡率)に与える影響を評価することです。

2. 研究対象

研究には7829名の患者が含まれており、そのうち4042名は東アジア、3787名は欧米からの患者です。すべての患者は胃癌のため胃切除術を受けており、Roux-en-YまたはBillroth再建を行わなかった患者やリンパ節郭清を行わなかった患者は除外されています。

3. 合併症の定義

合併症はKLASS試験およびGastroDataグループの基準に基づいて分類され、肺合併症、吻合部漏出、腹腔内貯留液、腸閉塞、瘻孔、手術部位感染、心合併症、腹腔内出血、吻合部狭窄、腔内出血、虚血、および腎不全などが含まれます。

4. データ収集と分析

データはGastroBenchmarkおよびGastroDataデータベースから収集され、欠損データを補完するために多重代入法が用いられました。ポアソン回帰モデルを使用して調整済み相対リスク(RR)および人口寄与割合(PAF)を計算し、特定の合併症が臨床結果に与える影響を評価しました。

主な結果

1. 合併症の発生率

7829名の患者のうち、1884名(24.1%)が術後合併症を経験しました。最も頻度の高い合併症は肺合併症(5.6%)、吻合部漏出(4.6%)、および腹腔内貯留液(3.8%)でした。

2. 合併症が臨床結果に与える影響

  • 30日死亡率:吻合部漏出、心合併症、および肺合併症が30日死亡率に最も大きな影響を与え、PAFはそれぞれ26.6%、18.7%、15.6%でした。
  • ケアのエスカレーション:吻合部漏出および肺合併症がケアのエスカレーションに最も大きな影響を与え、PAFはそれぞれ26.3%、18.4%でした。
  • 再手術:吻合部漏出および腹腔内出血が再手術に最も大きな影響を与え、PAFはそれぞれ31.6%、8.5%でした。
  • 入院期間の延長:ほとんどの合併症が入院期間の延長に寄与し、吻合部漏出および腹腔内貯留液の影響が最も大きかったです。
  • 再入院:合併症が再入院に与える影響は比較的小さく、PAFは15.9%を超えませんでした。

3. 地域差

東アジアと欧米の患者では、合併症の影響に違いが見られました。例えば、肺合併症が東アジア患者のケアエスカレーションに与える影響(PAF 28.4%)は、欧米患者(PAF 14.2%)よりも大きかったです。

結論

本研究は、吻合部漏出および肺合併症が胃癌切除術後の臨床結果に最も大きな影響を与えることを示しています。これらの合併症の発生率を減らすことで、30日死亡率、ケアエスカレーション、および再手術率を大幅に低下させ、医療負担を軽減することができます。研究結果は、世界中の胃癌治療の重要な参考資料となり、地域ごとの医療システムに応じた改善策を策定するための根拠を提供します。

研究のハイライト

  1. 多施設大規模サンプル:16か国から7829名の患者を対象としており、広範な代表性を持っています。
  2. 人口寄与割合(PAF):PAFを使用して合併症が臨床結果に与える影響を評価し、特定の合併症を優先的に取り組むための科学的根拠を提供しました。
  3. 地域差の分析:東アジアと欧米の患者では合併症の影響に違いがあることが明らかになり、地域ごとの医療システムに応じた改善策を策定するための参考となりました。

その他の価値ある情報

本研究の限界としては、一部のデータが欠損していることや、異なる施設間で合併症の定義が異なることが挙げられます。今後の研究では、システムおよび組織レベルの要因をさらに取り入れ、合併症の発生と影響をより包括的に理解することが求められます。

本研究を通じて、著者らは胃癌切除術後の合併症管理に関する重要な知見を提供し、世界中の胃癌治療の最適化に科学的根拠を提供しました。