C57BL/6野生型マウスにおける慢性移植皮質内微小電極周辺のニューロン機能的結合性は層依存的に障害される

神経電極の慢性的な埋め込み過程におけるマウス神経機能接続の層依存的影響

はじめに

この研究では、慢性的な埋め込み型微細電極がC57BL6野生型マウス脳内の神経機能接続に与える長期的影響を探る。埋め込まれた電極は神経信号の記録と電気刺激を行うことができ、脳-コンピュータインターフェイス(Brain-Computer Interface、以下BCI)システムに広く応用されている。例えば、運動制御や感覚知覚の回復などである。しかし、時間が経つにつれ、埋め込まれた電極による信号は徐々に劣化していく。この劣化は「異物反応」(Foreign-Body Response、以下FBR)によるものであると考えられている。しかし、FBRが具体的にどのように埋め込み周辺領域の神経回路機能とその安定性に影響を与えるかは明確ではない。本研究は、長期間のFBRが局部神経回路機能をどのように変化させるかを明らかにし、BCIデコーディング装置に及ぼす影響を深く理解することを目的としている。

研究の背景と目的

神経電極の埋め込みには応用の可能性があるが、記録の感度や安定性には依然として問題がある。これまでの研究では、埋め込まれた電極は急性の局部炎症を引き起こし、血液脳関門を破壊し、血球や血漿タンパク質の浸潤を招くことが示されている。これらの変化は、グリア細胞やアストロサイトを活性化し、包み込むグリア瘢痕を形成し、信号対雑音比を低下させ、信号検出に影響を及ぼす。また、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、グルタミン酸の増加は、神経細胞の生存やシナプスの完全性に影響を与え、近隣の神経細胞の静止や退縮を引き起こし、神経信号の検出能力を低下させる。ミエリンと乏突起膠細胞は、活動電位の伝導および軸索機能の支持において重要であり、その損傷は電極の信号検出能力をさらに制限する。

研究方法と実験手順

研究は、16チャネル、間隔100 µmのミシガン型微細電極を用い、皮質全層及び海馬CA1領域で記録を行った。対象は性別が均等な11-13週齢のC57BL6野生型マウスである。主な実験方法は以下の通り:

1. 電極埋め込み手術

研究対象は合計8匹のマウス(オス4匹、メス4匹)である。電極埋め込みは、ケタミンとダイアゼパンを用いてマウスを麻酔し、頭部をステレオタクシー装置に固定して行った。埋め込み部位の皮膚と結合組織を除去し、微細電極を左側一次視覚皮質に垂直に挿入し、後の電気化学インピーダンススペクトル測定で電極の正常機能を確認した。

2. 電気生理学的記録

電気生理学的記録は、マウスが覚醒し頭部が固定された状態で行い、自発活動と視覚刺激活動をそれぞれ記録した。視覚刺激のパラダイムとして、黒白の縞模様のドリフト勾配を用いて、神経活動が視覚刺激にどのように反応するかを研究した。

3. データ分析

電極深度の整合、単一ユニット分類、および周波数同期化分析を含む。電流源密度(Current Source Density、CSD)法を用いて埋め込まれた電極の層深を識別した。単一ユニットの波形はピーク-トラフ遅延に基づいて分類され、可能性のある興奮性と抑制性の神経細胞に分けられた。周波数間結合(Phase-Amplitude Coupling、PAC)を用いて神経ネットワークの機能接続性を定量的に評価した。

4. ユニット分類及び接続分析

記録中のユニット分類は、可能性のある興奮性と抑制性の神経細胞の活動変化を評価するために使用され、周波数同期化分析により局部ネットワークの活動を評価した。結果として、異なる時期のLFP相位-振幅カップリングの調整指数(modulation index、MI)に顕著な変化が見られた。

研究結果と議論

1. 層特異的な神経細胞活動の特徴

異なる深度の発火活動を分析した結果、慢性埋め込み電極の期間中に、L4の興奮性接続は安定しているが、L2/3は早期に機能を失い、下流の出力層(L5/6)の適切な層間接続が失われた。L2/3、L5/6は、慢性埋め込み電極の期間中に顕著な層依存的な機能接続性の変化を示した。L2/3層では、興奮性および抑制性の神経細胞の発火活動が徐々に低下し、特にL2/3からL5/6への一方向の接続が徐々に弱くなった一方で、L5/6層自身の視覚刺激に対する接続は強化された。

2. 層間接続機能の方向依存性

研究はさらに、慢性埋め込み電極が層をまたぐ機能接続に与える影響を明らかにした。情報受容層としてのL4は、過程中に安定した興奮性ネットワークを維持しているが、L2/3層は早期に接続機能不全を経験した。PAC分析は視覚刺激下でL4層の低頻度相とL2/3層の高頻度振幅の間に一貫した結合を示したが、この接続は初期に影響を受け、その後の時間の経過と共に徐々に回復することがわかった。

3. 海馬CA1領域のネットワーク活動の中断

皮質と比較して、海馬CA1領域は視覚刺激下で弱い反応を示した。局所場電位(LFP)分析はCA1のリズム振動が皮質と類似している一方で、LFPと局所神経細胞の同期不全が見られた。これは、海馬領域内の慢性埋め込みにより長期の機能接続不全が生じ、神経細胞の反応能力が影響されることを示唆している。

4. 研究の意義と応用

本研究は、慢性の微細電極埋め込み過程における異なる皮質層間および海馬CA1領域内の機能接続の変化を初めて明らかにし、埋め込まれた電極が引き起こす脳局部の神経ネットワーク喪失とそのメカニズムを理解するための重要な情報を提供した。本研究の発見は、新しい再生戦略とより持続的で安定したBCIデコーディング装置の開発にとって重要な意味を持つものである。

結論と展望

本研究は、慢性的な微細電極埋め込みがマウスの脳内神経機能接続に与える影響を系統的に記述し、特に視覚皮質および海馬領域の層依存的な機能接続障害について詳述した。本研究は、微細電極埋め込みによる長期的な神経ネットワークの退化を理解するための新しい視点を提供しただけでなく、脳内インプラント周辺組織の健康を改善するための介入策の開発にも繋がる可能性を示している。今後、この分野でのさらなる探求と技術の発展が期待される。

キーワード

脳-コンピュータインターフェイス(Brain-Computer Interface)、脳回路、局所場電位同期化(LFP Synchronization)、視覚皮質、神経炎症(Neuroinflammation)