ヒトの頭部方向の電気生理学的指標

頭位方向の電生理信号

人間の実際の頭方向電生理特性

ナビゲーションは人類の複雑な認知現象のコアコンポーネントの一つであり、頭方向情報は空間内で自分の位置を特定するために極めて重要です。しかし、ほとんどの神経映像実験では頭部を特定の位置に固定させることが求められるため、実際の頭方向信号には物理的に頭部を回転させる必要があり、人間の脳が実際の頭方向信号にどのように調整されるかについての理解は比較的少ないです。この問題を解決するために、Benjamin J. Griffithsおよびそのチームは、Nature Human Behaviour誌に”Electrophysiological signatures of veridical head direction in humans”というタイトルの研究報告を発表しました。記事リンク:https://doi.org/10.1038/s41562-024-01872-1。

研究背景

人類の頭方向の感知は主に物理的に頭部を回転させることに依拠しており、これまでのこの現象に関する神経コードは主に齧歯類動物の研究に基づいています。齧歯類動物の研究では、単一の脳ユニットが現在の頭方向に選択的に反応し、これらの「頭方向」細胞は動物が環境内で特定の角度を向いている時に選択的に発火します。これは、動物の物理的な場所に関係なく発生します。また、頭方向細胞を乱すと空間表象が破壊されることが示されており、頭方向の表象はナビゲーションに極めて重要であることが分かっています。

研究動機

動物の研究ではこれらの頭方向細胞の重要性が明らかにされていますが、人間の脳で直接この現象を研究することは多くの課題を抱えています。従来の映像技術(例えば脳磁図や磁気共鳴映像法)は頭部の位置を固定させる必要があり、アーティファクトを減少させるため、活動ナビゲーションの結論を導くことに制約があります。一方、脳波(EEG)は身体の運動に制限がないため、運動中の脳活動を測定するために使用できます。そのため、Griffiths及びそのチームは、EEGと脳内電生理(iEEG)技術を用いて、人間の脳が実際の頭方向信号をどのように調整しているかを研究したいと考えました。

研究出所

この研究はBenjamin J. Griffiths(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン心理学部)、Thomas Schreiner、Julia K. Schaeferなどによって行われ、参加した研究機関にはルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン心理学部、バーミンガム大学人間脳健康センター、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学病院、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学てんかんセンターなどが含まれます。研究は2023年7月12日に投稿され、2024年3月22日に受理されました。オンラインではNature Human Behaviour誌に発表されました。

実験設計と研究過程

研究は2つの実験を採用し、32名と20名の健康な参加者および10名のてんかん患者が含まれます。健康な参加者はEEG記録と運動追跡を行いながら一連の方向タスクを完了し、その中で物理的に頭部を目標位置に回転させました。患者はiEEG記録と運動追跡を行いながらタスクを完了しました。

実験フロー

  1. 実験一:位置決定タスク

    • 合計32名の参加者が4つの方向タスクを完了しました。これには、無指示回転、聴覚指示回転、眼球運動タスクおよび視覚入力なし回転が含まれます。前向き符号化モデル(FEM)を使用して頭方向に基づくEEG活動を予測しました。
    • タスクの詳細
      • 無指示回転:参加者は視覚的手がかりを通じて、頭部を指定されたスクリーンに回転させました。
      • 聴覚指示回転:視覚手がかりが移動する際に、対応する動物の音を再生し、参加者に頭部を回転させるように指示しました。
      • 眼球運動タスク:参加者は頭部を動かさずに目だけを目標スクリーンに移動させました。
      • 視覚入力なし回転:参加者は仮想現実ゴーグルを装着し、固定された点だけを見ながら音声の指示に従って頭部を回転させました。
  2. 実験二:立位と座位の比較

    • 合計20名の参加者が位置を変えたり立位または座位の方向タスクを完了しました。第1実験の結果を検証し、位置に依存しない頭方向信号と位置特異的な頭方向信号を区別することを目的としました。

データ処理および分析方法

  • EEGデータ処理:データ収集後、高周波および低周波フィルタを使用してEEG信号を処理し、アーティファクトを削除した後に再参照し、独立成分分析(ICA)および主成分分析(PCA)を通じて電気筋活動と最も関連のない成分を抽出しました。
  • 運動追跡データ処理:ドミニク自由システムを通じて頭部運動を記録し、頭部のステップアングルを抽出しました。
  • 眼球運動追跡データ処理:Tobii Proスペクトラムシステムを通じて眼球運動データを記録し、同様にフィルタリングおよびアーティファクトの削除を行いました。
  • 前向き符号化モデル(FEM):異なる基底セットに応じて頭方向の角度を設定し、リッジ回帰手法を用いてEEG活動との相対的な重み付けを推定し、線形混合効果モデル(LME)を用いて異なる頭方向の電生理信号を評価しました。

主な研究結果

  1. EEGデータの調整結果:結果はEEG信号が頭方向の変化過程で顕著に調整され、20°の調整幅が最適であることを示しました。EEG活動は視覚信号と筋活動の制御後でもなお頭方向の変化を予測することができました。
  2. 空間的に独立した信号:脳の視覚および内側の側頭葉領域に位置する信号は、視覚入力や位置変化に依存しないことが発見され、齧歯類の頭方向細胞に似た現象を示しました。
  3. 時間的先行効果:EEG調整信号は物理的な頭部回転の約120ミリ秒前にピークに達し、動物研究の事前予測特性と一致しました。
  4. 脳領域の起源:EEGの源定位およびiEEG解析を通じて、頭方向効果の起源が内側の側頭葉であることが確認されました。さらに、百会頂葉、前頭葉などの領域も調整効果を示しました。

研究結論と意義

本研究は、自由に活動する人間の参加者において、実際の頭方向に関連する電生理信号を初めて検出し、齧歯類の頭方向細胞活動と顕著な類似性を示しました。これらの発見は、人間の空間ナビゲーションにおける頭方向符号化の理解を拡張するだけでなく、より自然なナビゲーションや仮想現実アプリケーションの開発にも寄与します。

研究のハイライト

  • 巧妙な実験設計と前向き符号化モデルの適用を通じて、従来の映像手法で頭部固定の制約を克服し、人間の中で初めて精確な頭方向調整信号を明らかにしました。
  • 視覚、聴覚および筋活動の制御後にも純粋に頭方向に基づく神経信号を明確にすることができました。
  • 実験はEEGとiEEGの記録を組み合わせ、皮質の電活動から深い脳領域までの証拠の連鎖を提供しました。

この研究は、人間の認知ナビゲーションの理解を深化させるだけでなく、自然な環境下での神経科学の応用研究を推進するのにも寄与します。