反復経頭蓋磁気刺激が皮質活動に与える影響: 機能的近赤外線分光評価を利用した系統的レビューとメタアナリシス

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)による皮質活動への影響に関する系統的レビューとメタ分析 - 機能的近赤外分光法(fNIRS)による評価

背景

反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation、rTMSと略す)は、磁場を生成し大脑皮質内に電流を誘導することで神経調節効果を生み出す装置であり、皮質興奮性を高めるまたは抑制効果を引き起こすことができます。この技術は刺激部位の皮質興奮性に局所的な影響を与えるだけでなく、複雑な神経ネットワークと相互投射を介して対側の脳領域にも影響を及ぼします。その応用範囲は広く、主に大うつ病(major depressive disorder)、神経病理性疼痛、および脳卒中後の運動機能回復などの治療に使われています。

近年、機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy、fNIRSと略す)は、皮質血液力学反応変化の検出における優位性から、rTMSに組み合わせて使用されるようになり、さまざまなrTMS方式の皮質への影響を評価・微調整することを目的としています。しかしながら、rTMSが皮質活動に与える具体的な影響については未だ多くの議論があります。そこで本研究では、系統的レビューとメタ分析を行い、rTMSが一次運動野(primary motor cortex、M1と略す)の皮質血液力学反応に与える影響を明らかにすることを目的としました。

研究機関

本研究は、Shao-yu Chen、Meng-hsuan Tsou、Kuan-yu Chen、Yan-ci Liu、Meng-ting Linらによって行われ、Yan-ci LiuとMeng-ting Linが通信著者です。この研究は、National Taiwan University HospitalとNational Taiwan University College of Medicineに所属しています。論文は2024年にJournal of NeuroEngineering and Rehabilitationに掲載されました。

研究方法

系統的レビューのプロセス

研究では、PubMed、Embase、ScopusデータベースからrTMSに関連する文献を系統的に検索し、データベース構築時から2024年4月までの範囲を対象としました。キーワードには、”fNIRS”、”NIRS”、”near infrared spectroscopy”、”光学断層撮影”などとともに、”rTMS”、”transcranial magnetic stimulation”、”motor cortex”、”Broca area 4”、”M1”に関連する用語が含まれていました。ふるい分け過程は2人の医学研究者が独立に評価し、最終的に14編の論文が定性的レビューに、7編の論文がメタ分析に採用されました。

包含基準

包含基準は以下の通りです。(1)年齢や性別を問わず、神経疾患や精神疾患の既往がない健康な個人を対象とする。(2) rTMSによってM1皮質を刺激し、fNIRSで皮質活動を評価する。除外基準は、(1)単一パルスTMS研究、(2)刺激標的がM1皮質ではない研究です。

バイアスリスク評価

ランダム化対照試験ではCochrane Riskofバイアスツール(Rob 2.0)を使用し、その他の観察研究ではNewcastle-Ottawa Scale(NOS)を用いてバイアスリスクを評価しました。2人の評価者が独立にバイアスリスクを評価し、意見が分かれた場合は議論して一致させ、それでも分かれる場合は対応著者に確認しました。

メタ分析

7編の研究から参加者数、平均値、標準偏差などのデータを抽出し、RevManソフトウェアを使ってメタ分析を行いました。分析対象となったデータには、皮質血液量濃度([Hb])、酸素化血液濃度([HbO])、非酸素化血液濃度([HbD])などが含まれていました。

研究結果

研究の特徴

  • 総研究数: 312編
  • 最終採用数: 14編(定性的レビュー)、7編(メタ分析)
  • 研究対象: 健康な成人
  • rTMS方式: 従来のrTMS(10編)、四重パルス刺激(QPS)(2編)、theta burst刺激(TBS)(3編)
  • 測定指標: fNIRSによるCerebral Blood Flow(CBF)、[Hb]、[HbO]、[HbD]の記録
  • 多くの研究では、オンライン効果と刺激後効果の両方を記録していましたが、機能課題(指たたき課題など)中のfNIRS測定を行った研究は少数でした。

fNIRS測定結果

  • 抑制性rTMS: 低頻度(1Hz)のrTMSでは、同側M1皮質で[HbO]濃度が低下し、その範囲は対側皮質まで及びました。
  • 興奮性rTMS: 高頻度rTMS(>5Hz)や短間隔QPS(例えばQPS-5)などの賦活rTMSでは、一般に同側皮質の[HbO]濃度が上昇しました。

メタ分析結果

メタ分析では、低頻度の抑制性rTMSにおいて、対側皮質で[HbO]が増加し、同側皮質で[HbO]が低下する傾向が見られました。しかし、研究間の異質性が高かったため、rTMSが脳活動にどのような変化をもたらすかを包括的に理解するにはさらなる研究が必要です。

討論

高頻度と低頻度刺激の影響の違い

異なる周波数のrTMS方式は皮質興奮性に異なる影響を与えます。低頻度rTMSは皮質興奮性を低下させ、高頻度rTMSは皮質興奮性を高めます。TBSやQPSも、短期および長期の神経可塑性を介して脳活動に影響を及ぼすことができます。

装置の設定と潜在的な干渉

rTMS刺激とfNIRS測定の間で干渉が生じる可能性があり、研究では装置の距離と出力を調整しています。これらの要因により、追加的なノイズや偽信号が生じる可能性があり、データ分析時に特に注意が必要です。

限界

本研究には主に予備的な観察研究が含まれており、サンプルサイズが小さく、fNIRSチャンネル数が限られ、研究デザインやrTMS変数にばらつきがあるため、結果の正確性に影響を与えている可能性があります。これらの研究のばらつきを慎重に解釈する必要があり、高い異質性は、さらに標準化された研究が必要であることを示唆しています。

結論

研究デザインやパラメータが異なるにもかかわらず、低頻度の抑制性rTMSにおいて、対側皮質で[HbO]が増加し、同側皮質で[HbO]が低下するという傾向は、メタ分析でも一貫した支持が得られました。これらの観察結果は、大脑皮質間に密接な相互作用と半球間調節効果が存在することを示しています。今後の研究では、rTMSが脳活動に与える影響のメカニズムをさらに探求し、神経リハビリテーションの理論的基礎を提供する必要があります。