宿主DNAの除去による結腸組織生検でのショットガンメタゲノムシーケンシングの高感度性
大腸組織生検における高感度メタゲノムシーケンシング:宿主DNAの除去の影響
背景
次世代シーケンシング技術を用いて培養条件なしでバクテリアの分類構造を評価することは、細菌の不均衡とさまざまな疾患との関係を研究するための一般的な方法となっています。これまでの研究では、16S rRNA遺伝子アンプリコンまたはメタゲノムシーケンシングを用いて、ヒトの口腔、腸粘膜、糞便サンプルの微生物叢スペクトルを分析してきました。しかし、16S rRNA遺伝子シーケンシングは分類識別の解像度に限界があるのに対し、メタゲノムシーケンシングは種や亜種レベルのバクテリアを識別することができます。さらに、メタゲノムシーケンシングは複数の領域にわたるデータを提供し、複数のドメインにまたがる相互作用を推測することができます。
メタゲノムシーケンシングは、疾患の診断と治療を含む組織サンプル中の微生物叢の特徴付けに重要な臨床応用がありますが、サンプル中のヒトDNAが大多数を占めることが、低存在量のバクテリアの検出を制限しています。このDNA存在量の不均衡により、組織サンプルにおけるメタゲノムシーケンシングの感度が低下します。そこで、この問題を解決するために、研究者らは宿主DNAの除去により大腸生検サンプルにおけるメタゲノムシーケンシングの効果を高める最適化された方法を提案しました。
論文の出典
この研究は、香港中文大学消化器疾患国家重点研究所の研究チームによって行われ、主な著者にはWing Yin Cheng、Wei-Xin Liu、Yanqiang Ding、Guoping Wang、Yu Shiらが含まれています。この論文は『Genomics, Proteomics & Bioinformatics』第21巻(2023年)に掲載されました。
研究手順
本研究では、研究者らはヒトまたはマウスの大腸生検サンプルをグループに分け、一方のグループで宿主DNAを除去し、もう一方をコントロールとしました。宿主DNAは哺乳類細胞とバクテリア細胞の差異溶解により除去され、その後サンプルのメタゲノムシーケンシングが行われました。研究手順は以下の手順で構成されています:
サンプルの均質化とグループ分け:ヒトとマウスの大腸組織を均質化し、等量に2分割。一方を宿主DNA除去用、もう一方をコントロール群とした。
宿主細胞の差異溶解:
- 宿主除去群に対しては、まず哺乳類細胞を溶解して宿主DNAを放出し、Benzonase酵素で分解。
- その後、バクテリア細胞を溶解してバクテリアDNAを抽出し、メタゲノムシーケンシングを実施。
メタゲノムシーケンシング:Illumina HiSeq 2000プラットフォームを使用して、ペアエンド150 bp(PE150)シーケンシングを実施。シーケンシングデータを参照ゲノムデータベースとアライメントし、分類学的分析を行った。
データ解析:
- Trimmomaticを使用してシーケンシングリードの品質をフィルタリング。
- Bowtie-2を使用してエンドツーエンドアライメントを行い、宿主配列を除去。
- 残りの非宿主リードをKraken分類割り当てソフトウェアを使用してバクテリアゲノムデータベースとアライメント。
研究結果
この研究は、宿主DNAの除去がバクテリアリードを大幅に増加させ、種の発見数を増加させることを示しました。ヒトとマウスの大腸組織サンプルにおいて、宿主DNAの除去後、バクテリア配列リードはそれぞれ2.46± 0.20倍と5.46 ± 0.42倍増加し、一方で宿主リードは6.80% ± 1.06%と10.2% ± 0.83%減少しました。さらに、宿主DNA除去後、検出されたバクテリア種の数が大幅に増加し、ヒトサンプルでは2998±401種が検出されたのに対し、コントロール群では891±98種のみでした。マウスサンプルでは3707±1465種が検出され、コントロール群では1555±314種でした。非除去群のバクテリア種の大部分(ヒトで93.45%±0.89%、マウスで83.34%±7.00%)が除去群でも検出され、この方法が種の検出感度を向上させながら微生物組成を損なわないことを示しています。全体として、宿主DNAの除去は組織サンプル中のバクテリア検出カバレッジを大幅に増加させ、多様性を向上させました。
さらに、宿主DNAの除去はバクテリア遺伝子のカバレッジも増加させました。遺伝子累積分析によると、ヒト大腸生検サンプルでのバクテリア遺伝子検出が33.89%増加し、マウスサンプルでは95.75%増加しました。
結論と価値
研究結果は、最適化された宿主DNA除去方法により、メタゲノムシーケンシングの感度とバクテリア検出カバレッジを向上させながら、微生物叢の相対的な多様性を維持できることを示しています。この方法は組織生検サンプルで優れた性能を示し、重要な臨床応用価値があります。例えば、疾患の発生や進行に重要なバクテリアを識別することができ、疾患の早期診断と治療の根拠を提供することができます。微量の組織サンプルが限られている場合、この方法により、より多くのサンプルを他の分析(トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなど)に使用することができます。さらに、この方法は臨床サンプルの処理に容易に適用でき、特に腸内微生物叢と宿主の健康との関係を研究する上で広範な応用の可能性があります。
研究のハイライト
- 宿主DNA除去技術がメタゲノムシーケンシングの感度と種の検出範囲を大幅に向上させた。
- 微生物叢の相対的な組成を維持し、構造を著しく変化させなかった。
- 抽出されたバクテリア遺伝子の数と多様性が大幅に向上した。
- この方法は広範な適用可能性があり、臨床サンプルの処理に重要な意義を持つ。
今後の研究
今後の研究では、さまざまなタイプの組織サンプルに対して宿主DNA除去方法をさらに最適化し、他の臨床応用における可能性と限界を探ることができます。研究者らは、異なる疾患状態におけるこの方法の適用効果を調査し、この分野の研究と臨床応用をさらに進展させることが期待されます。