食事性亜鉛が健康および悪性マウス前立腺における亜鉛分泌MRIに与える影響

食事性亜鉛が健康および悪性マウス前立腺における亜鉛分泌のMRIイメージングに与える影響

学術的背景

亜鉛(Zn²⁺)は生物にとって不可欠な微量元素であり、酵素の触媒作用、転写因子の構造調節、免疫システムの調節、細胞増殖、分化、生存など、さまざまな生理的プロセスに関与しています。前立腺は人体の中で最も亜鉛含有量の高い組織の一つであり、前立腺癌(Prostate Cancer, PCA)患者では亜鉛レベルが著しく低下することが知られています。この現象は、前立腺の健康と疾患における亜鉛の役割に対する研究者の関心を引き起こしました。近年、亜鉛応答性MRIプローブであるGdL1の開発により、特にグルコース刺激下での亜鉛分泌(Glucose-Stimulated Zinc Secretion, GSZS)をMRIイメージングで検出することが可能となり、健康な前立腺組織と悪性組織を区別することができるようになりました。

しかし、食事中の亜鉛摂取量には大きなばらつきがあり、前立腺組織中の亜鉛含有量やその分泌能力に影響を与える可能性があります。したがって、本研究では、異なる食事性亜鉛摂取量が健康および悪性マウス前立腺組織中の亜鉛含有量とその分泌に与える影響を探ることを目的とし、前立腺癌のMRI検出に新たな視点を提供することを目指しています。

論文の出典

本論文は、Veronica Clavijo Jordan、André F. Martins、Erica Daoらによって共同執筆され、ハーバード大学医学部、ドイツのテュービンゲン大学、マクマスター大学、テキサス大学サウスウェスタン医療センターなど、複数の研究機関の研究者が参加しています。論文は2024年にnpj Imaging誌に掲載されました。

研究の流れと結果

研究デザイン

本研究では、分子磁気共鳴画像法(MRI)とシンクロトロン放射X線蛍光(Synchrotron Radiation X-ray Fluorescence, SR-XRF)技術を用いて、食事性亜鉛摂取量が健康および悪性マウス前立腺組織中の亜鉛含有量とその分泌に与える影響を調査しました。実験は、低亜鉛(0.05 ppm)、通常亜鉛(30 ppm)、高亜鉛(150 ppm)の3つの食事群に分け、21日間飼育した後、イメージング分析を行いました。

実験手順

  1. 動物モデルと食事制御:野生型(WT)および前立腺癌トランスジェニック(TRAMP)マウスを使用し、それぞれ低亜鉛、通常亜鉛、高亜鉛の食事を21日間与えました。
  2. MRIイメージング:イメージング前にマウスを一晩絶食させ、尾静脈からGdL1プローブを注射し、腹腔内にグルコースを注射して亜鉛分泌を刺激しました。9.4 T MRIスキャナーを使用してT1強調画像を取得し、注射前後の前立腺画像を記録しました。
  3. SR-XRF分析:イメージング後、マウスを安楽死させ、前立腺組織を迅速に凍結し、切片を作成してSR-XRF分析を行い、組織中の亜鉛分布を検出しました。
  4. 血液分析:血液サンプルを採取し、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて血清中の亜鉛含有量を測定しました。

主な結果

  1. 食事性亜鉛が体重と亜鉛の生体利用能に与える影響:低亜鉛食はマウスの体重を有意に減少させ、健康なマウスでは低亜鉛食で血清亜鉛含有量が増加しましたが、TRAMPマウスでは血清亜鉛レベルを効果的に調節できませんでした。
  2. 前立腺組織中の亜鉛分布:SR-XRF分析によると、健康なマウスの前立腺組織中の亜鉛含有量は食事群間で大きな差はありませんでしたが、TRAMPマウスの前立腺組織中の亜鉛含有量は有意に低くなりました。
  3. GSZSのMRI検出:MRIイメージングでは、健康なマウスではグルコース刺激下で亜鉛分泌が著しく増加し、その分泌量は食事性亜鉛摂取量に比例していました。一方、TRAMPマウスでは亜鉛分泌能力が著しく低下し、食事性亜鉛摂取量の影響を受けませんでした。

結論

本研究は、食事性亜鉛摂取量が健康なマウスの前立腺組織中の亜鉛分泌能力に大きな影響を与える一方で、TRAMPマウスでは悪性細胞の亜鉛貯蔵能力の低下により亜鉛分泌能力が著しく低下することを示しました。この発見は、GSZS MRI検出の前に食事性亜鉛を補充することで、健康な前立腺組織と悪性組織の間の画像コントラストを高め、前立腺癌の検出精度を向上させる可能性を示唆しています。

研究のハイライト

  1. 亜鉛分泌のMRI検出:食事性亜鉛摂取量が前立腺亜鉛分泌に与える影響を初めてMRIイメージング技術で検出し、前立腺癌の非侵襲的検出に新たな方法を提供しました。
  2. 食事性亜鉛の影響:食事性亜鉛摂取量が健康な前立腺組織と悪性組織中の亜鉛含有量およびその分泌能力に与える差異を明らかにし、前立腺癌の早期診断に理論的根拠を提供しました。
  3. TRAMPモデルの検証:TRAMPマウスモデルを用いて、悪性前立腺組織中の亜鉛貯蔵および分泌能力の低下を検証し、前立腺癌における亜鉛の重要性をさらに支持しました。

研究の意義

本研究は、前立腺の健康と疾患における亜鉛の役割についての理解を深めるだけでなく、前立腺癌のMRI検出に新たな視点を提供しました。食事による亜鉛摂取量の調節により、GSZS MRI検出の精度を向上させ、前立腺癌の早期診断と治療に潜在的な応用価値を提供する可能性があります。

その他の価値ある情報

本研究で使用されたGdL1プローブは複数の特許を取得しており、VitalQuan社にライセンス供与されています。また、研究は亜鉛がグルコース代謝において果たす潜在的な役割を明らかにし、今後の代謝疾患における亜鉛の機能研究に新たな方向性を提供しました。


この研究を通じて、前立腺の健康と疾患における亜鉛の役割についての理解が深まり、前立腺癌の非侵襲的検出に新たな技術的手段が提供されました。今後、GdL1プローブのさらなる最適化と臨床応用により、GSZS MRI検出は前立腺癌診断の重要なツールとなることが期待されます。