治療を求める人々におけるオピオイド使用と中止中のデフォルトモードネットワークの安静時機能接続性

オピオイド使用と離脱中のデフォルトモードネットワークの機能的接続性に関する研究

背景紹介

オピオイドの乱用は、特に米国において、公衆衛生上の深刻な問題となっています。1999年以降、オピオイド過剰摂取による死亡者数は3倍に増加しています。オピオイドは依存症を引き起こすだけでなく、慢性疼痛、免疫系の抑制、および注意力、記憶力、実行機能などの神経認知機能の障害とも関連しています。さまざまな治療法が存在するにもかかわらず、オピオイド依存症患者の再発率は依然として非常に高く、これが依存症の異なる段階における新しい介入手段の探求を促しています。

機能的神経画像法(functional neuroimaging)は、依存症の神経メカニズムを研究するための新しい視点を提供します。デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network, DMN)は、安静時に活性化する脳ネットワークで、自己監視や心理的シミュレーションなどの機能に関与しています。研究によると、DMNは物質使用障害(Substance Use Disorders, SUDs)において重要な役割を果たしており、特に依存症と離脱期間中にその役割が顕著です。しかし、オピオイド使用障害(Opioid Use Disorder, OUD)におけるDMNの機能的接続性に関する研究はまだ限られています。したがって、本研究は、オピオイド使用と離脱期間中のDMNの機能的接続性の変化を探り、これらの変化が再発を予測できるかどうかを評価することを目的としています。

論文の出典

本論文は、Jade Dandurand、Michael Steinら研究者によって共同で執筆され、研究チームは米国ジョージア大学心理学部、ボストン大学公衆衛生学部、ブラウン大学精神医学と人間行動学部など複数の機関に所属しています。論文は2025年に『European Journal of Neuroscience』誌に掲載され、タイトルは『Resting state functional connectivity of the default mode network during opioid use and cessation in treatment-seeking persons』です。

研究の流れ

研究対象とデザイン

研究では、DSM-5のオピオイド使用障害の診断基準を満たす治療を求める20名を募集し、最終的に11名の参加者がすべての研究プロセスを完了しました(男性7名、平均年齢30.9歳)。参加者はオピオイド使用中と離脱中にそれぞれ2回の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)スキャンを受け、2回のスキャンは約3日間隔で行われました。離脱中のスキャンは、参加者がブプレノルフィン(buprenorphine)治療を開始した後に行われました。

実験方法

  1. fMRIスキャン:Siemens Tim Trio 3.0Tスキャナーを使用して安静時のfMRIスキャンを実施し、各スキャンは6分間続きました。参加者はスキャン中に画面上の十字マークを注視するよう指示されました。
  2. 画像処理:AFNIソフトウェアを使用してfMRIデータを処理し、時間補正、ノイズ除去、位置合わせ、空間平滑化などのステップを経ました。最終的に、DMN、顕著性ネットワーク(Salience Network, SN)、および実行制御ネットワーク(Executive Control Network, ECN)のシード領域(seed regions)の時系列データを抽出しました。
  3. 機能的接続性分析:シード領域と全脳ボクセルの時系列データの相関を計算し、各ネットワークの機能的接続性の強度を定量化しました。相関係数をFisher変換を使用してz値に変換し、グループレベルの分析を行いました。

データ分析

  1. 離脱症状の評価:主観的オピオイド離脱尺度(Subjective Opiate Withdrawal Scale, SOWS)を使用して、参加者の離脱症状の重症度を評価しました。
  2. 機能的接続性の比較:使用中と離脱中のDMNの機能的接続性の強度を比較するために、対応のあるt検定を使用しました。
  3. 再発予測:独立したt検定を使用して、再発者と非再発者の離脱中のDMNの機能的接続性の差異を比較しました。

主な結果

  1. 離脱中のDMNの機能的接続性の増加:研究では、離脱中にDMN全体の機能的接続性が有意に増加し、特に後帯状皮質(Posterior Cingulate Cortex, PCC)と両側角回(Angular Gyrus, AG)間の接続性が顕著でした。この結果は、離脱中にDMNが自己参照処理や未来思考に関与している可能性を示唆しています。
  2. 離脱症状と機能的接続性の関連性:離脱症状の重症度は、DMNの機能的接続性の増加と正の相関があり、特に右角回(Right Angular Gyrus, RAG)領域で顕著でした。さらに、実行制御ネットワーク(ECN)の機能的接続性も離脱症状の重症度と関連していました。
  3. 再発予測:離脱中のDMNの機能的接続性の増加が観察されたものの、機能的接続性の強度と再発率との間に有意な関連は見られませんでした。

結論と意義

本研究は、オピオイド使用障害患者における使用中と離脱中のDMNの機能的接続性の変化を初めて探りました。結果は、離脱中のDMNの機能的接続性の増加が離脱症状の重症度と関連している可能性を示しており、特に自己参照処理や未来思考に関与していることが示唆されます。この発見は、オピオイド依存症の神経メカニズムを理解するための新しい視点を提供し、DMNの機能的接続性が離脱中の神経修復のマーカーとして機能する可能性を示しています。

しかし、研究のサンプルサイズが小さい(n=11)ため、結果の一般化には限界があります。今後の研究では、サンプルサイズを拡大し、DMNと他の脳ネットワーク(SNやECNなど)の相互作用をさらに探求することで、依存症の神経メカニズムをより深く理解し、より効果的な介入策を開発することが期待されます。

研究のハイライト

  1. オピオイド使用障害におけるDMNの機能的接続性を初めて探求:本研究は、オピオイド依存症研究におけるDMNの機能的接続性の空白を埋めるものです。
  2. 離脱中のDMNの機能的接続性の増加:この発見は、離脱中の神経メカニズムを理解するための新しい証拠を提供します。
  3. 離脱症状と機能的接続性の関連性:研究は、DMNの機能的接続性と離脱症状の重症度との関係を明らかにし、これが離脱中の神経修復のマーカーとして機能する可能性を示唆しています。