ナチュラルキラー細胞は好中球の細胞外トラップを促進し、マウスの黄斑変性を抑制する

黄斑変性研究は自然殺細胞が疾患の進行を阻害する作用を明らかにする

背景

加齢黄斑変性症(Age-related Macular Degeneration、AMD)は、高齢者の不可逆的な失明の主な原因である。人口の高齢化に伴い、AMDの発症率が著しく上昇している。AMDの初期の特徴には網膜下の不溶性脂質の蓄積(ドルーセン)があり、後期には網膜色素上皮(RPE)と光受容体の萎縮(乾性AMD)および脈絡膜新生血管形成(湿性AMD)が見られる。湿性AMDは約90%の視力損失例を占める。

抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法は湿性AMDの治療に成功したが、多くの患者では部分的な反応しか示さず、持続的な漏出、出血、線維化の問題が残る。これは、AMDの病理機序の深い理解が新しい治療戦略をもたらす可能性があることを示唆する。

炎症はAMDの進行に重要な役割を果たす。AMD初期には、免疫原性修飾タンパク質、補体タンパク質、免疫グロブリンを含むドルーセンが網膜下空間に蓄積し、不均衡な網膜免疫反応を引き起こし、ミクログリアや骨髄由来マクロファージなどの免疫細胞を誘導する。貪食細胞がドルーセンを適切に除去できない場合、血管新生反応が引き起こされ、疾患が後期に進行する。この過程で、免疫細胞は多くの血管新生促進因子と分解酵素を産生し、血管新生を調節する。

骨髄由来細胞(ミクログリア、マクロファージ、好中球)のAMD病理への関与は研究されているが、リンパ球の役割はよくわかっていない。自然殺細胞(NK細胞)は先天免疫細胞であり、インターフェロンγ(IFN-γ)の産生により炎症反応の開始を制御し、細胞毒性活性により標的細胞を排除する。NK細胞は炎症シグナルに迅速に反応し、標的臓器に最初に到達する細胞の1つである。しかし、AMDにおけるNK細胞の潜在的な役割とその影響は定義されていない。

研究概要

本論文は2024年8月14日の「Science Translational Medicine」に掲載され、Xue Dong、Yinting Songらのチームによる研究成果である。天津医科大学、南開大学、Tulane University、Queen’s University Belfastなどの多くの研究機関に所属する研究者が参加した。

本研究は、サンプルとマウスモデルを用いて、AMDの病変におけるNK細胞の表現型と機能を分析し、その病理への寄与を検討した。NK細胞が好中球細外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps、NETs)形成を誘導し、脈絡膜血管新生を抑制し、AMDの進行を遅らせることが示された。

研究方法と過程

研究対象とサンプル

本研究では、患者およびマウスモデルのサンプルデータを主に分析した。単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)とプロテオミクス解析により、患者サンプルにおけるNK細胞の存在とその作用が確認された。マウスモデルでは、レーザー誘発網膜光凝固法やvldlr-/-マウスなどの古典的AMDモデルが用いられた。

解析方法

マウスサンプルに対しては、バルクRNAシーケンシング(RNA-seq)、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色などの実験が行われた。研究チームはNK細胞の除去や特異的受容体阻害などの革新的な実験方法も取り入れ、病変への影響を観察した。

主な手順

  1. サンプル収集: AMD患者と対照群の眼組織を採取し、RNA およびタンパク質レベルの解析を行った。
  2. NK細胞の解析: フローサイトメトリーとRNA-seqを用いて、NK細胞の濃縮度と分子特性を同定した。
  3. 機能検証: NK細胞の除去と特異的受容体阻害により、病変組織における好中球活性と病理変化を観察した。
  4. 細胞相互作用の研究: 体外でNK細胞と好中球を共培養し、NK細胞がNETs形成に与える影響を研究した。
  5. 内在メカニズムの解析: 複数の遺伝子発現データベースを用いて、病変組織におけるNK細胞のシグナル伝達と細胞間相互作用を解析した。

研究結果

  1. NK細胞の病変組織への濃縮: 研究では、CNVモデルマウスとAMD患者の網膜脈絡膜複合体においてNK細胞が顕著に濃縮していることが分かった。
  2. NK細胞の保護的作用: NK細胞を除去するか、活性化受容体(NKG2Dなど)を阻害すると、好中球のNETs形成が減少し、血管漏出が増悪し、病理的血管新生が悪化した。
  3. NETsの役割: 好中球はAMD病変においてNETsを形成し、この構造は老化した血管を除去し、病変の進行を防ぐ。NETsの形成が阻害されると病変が悪化した。
  4. 炎症シグナル経路の解析: NK細胞はIFN-γやIL-18などのシグナルを介して好中球のNETosisを媒介する。さらに、CCR5はNK細胞の動員に重要な役割を果たす。
  5. 年齢関連変化: 年齢が上がるにつれて、NK細胞の細胞毒性が顕著に低下する。高齢マウスでは、活性の低いNK細胞が病変を効果的に抑制できなかった。