小児科クリニックに通う低所得層の子供たちに対する親向け口腔衛生テキストメッセージ:ランダム化比較試験
虫歯(カリエス)は子どもたちに最も一般的な慢性疾患の一つであり、異なる人種、民族、および収入グループにおいて顕著な健康格差が存在しています。効果的な予防法がすでにあるにもかかわらず、低所得層や少数民族の子どもたちの虫歯リスクは依然として高いままです。アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics)は、子どもの健康診察を、高リスクの子どもたちにアプローチするための重要な機会と位置付けていますが、時間的制約により、小児科医が保護者に対して子どもの口腔衛生を改善するための十分な指導を行うことが難しい場合があります。その一方で、アメリカの成人の95%以上が定期的にショートメッセージ(テキストメッセージ)を使用しており、この割合は人種、民族、または収入による顕著な差がありません。そのため、メッセージを利用した介入は、個別化された行動変容情報を継続的に提供するための有望な手段といえます。
しかしながら、子どもの口腔衛生向上を目的としたテキストメッセージ介入に関する従来の研究では、サンプルサイズが小さく、追跡期間が短いケースが多く、厳密な対照群設計が行われていないことがほとんどです。この欠点を補うため、研究チームはこれまでに一連の研究を実施し、低所得層および少数民族を対象にインタラクティブでゲーム性を備えた保護者向けテキストメッセージ介入プログラムを開発しました。この研究では、その内容をさらに拡張し、サンプルサイズを大きくし、介入およびフォローアップ期間を延ばし、新しいメッセージングのインタラクション戦略を採用しました。
論文概要
本論文は、Belinda Borrelli博士、Romano Endrighi博士、Timothy Heeren博士、William G. Adams博士、Stuart A. Gansky博士、Scott Werntz氏、Nicolle Rueras氏、Danielle Stephens氏、Niloufar Ameli氏、そしてMichelle M. Henshaw博士によって執筆されました。著者らはボストン大学(Boston University)やカリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)など複数の機関に所属しています。この研究は2025年1月2日に『JAMA Network Open』誌に発表され、題名は「Parent-Targeted Oral Health Text Messaging for Underserved Children Attending Pediatric Clinics: A Randomized Clinical Trial」です。
研究デザインと方法
研究の流れ
この研究は「Interactive Parent-Targeted Text Messaging in Pediatric Clinics to Reduce Caries Among Urban Children(iSmile)」と呼ばれる平行ランダム化対照試験です。この研究はボストン市内の4つの小児科クリニックで実施され、低所得層および少数民族家庭の子どもとその保護者が対象です。参加条件は、7歳未満で少なくとも1本の歯を有する子どもの英語またはスペイン語を話す保護者とされました。研究期間は2018年3月9日から2022年2月28日までで、追跡期間は24か月でした。介入は4か月間行われ、12か月目に1か月の強化介入が追加されました。
介入内容
メッセージ内容は二言語対応、かつ自動化、インタラクティブ性、個別化、ゲーム化されています。口腔衛生メッセージ(Oral Health Text, OHT)群では、子どもの歯磨きや予防的な歯科受診に焦点が置かれました。一方で、子どもの健康メッセージ(Child Wellness Text, CWT)群では、読書や子どもの安全に焦点を当てました。両群ともに、その他の関連テーマを選択できる機能が含まれていました。
主要および副次的評価項目
主要評価項目は、24か月時点での虫歯の増加量であり、校正済みの検査員が評価しました。副次的評価項目は、虫歯に関連する口腔衛生行動(例:歯磨き、加糖飲料の摂取、食事、フッ化物歯磨き剤の使用、予防歯科受診)などであり、これらは自己申告に基づいて評価されました。また、参加者のテキストメッセージ介入への満足度も評価されました。
参加者とサンプルサイズ
研究には754人の保護者(平均年齢32.9歳、94.6%が女性)とその子ども(平均年齢2.9歳、女性50%)が参加しました。OHT群とCWT群それぞれに377人ずつが割り当てられ、参加者の68.3%が貧困線以下で生活していました。
研究結果
主な結果
24か月間の追跡調査の結果、OHT群とCWT群の間で虫歯の増加に有意な差は見られませんでした(OHT群:43.0%、CWT群:42.7%;調整後オッズ比[OR]=0.99, 95%信頼区間[CI]: 0.63-1.56)。しかし、OHT群の子どもは、歯磨きガイドラインを遵守する可能性が高く(OR=1.77, 95% CI: 1.13-2.78)、予防歯科受診を経験する可能性が高く(OR=1.51, 95% CI: 1.18-1.94)、フッ化物歯磨き剤を使用する可能性が高い(OR=1.46, 95% CI: 1.06-2.01)ことが分かりました。さらに、OHT群の保護者自身の歯磨き行動も向上しました(平均差: 0.48, 95% CI: 0.03-0.92)。
副次的な結果
OHT群の子どもは、CWT群と比較して、歯磨き回数、予防歯科受診率、フッ化物使用率において有意に高い結果となりました。一方、加糖飲料の摂取や食生活に関しては、両群間で有意な差は見られませんでした。
結論と意義
OHTメッセージ介入は子どもの虫歯増加を顕著に減少させることはできませんでしたが、虫歯予防に関連する口腔衛生行動(歯磨き、予防的な歯科受診、フッ化物使用など)を改善することができました。また、保護者の歯磨き行動にもプラスの効果を及ぼしました。このような低負担で日常生活に容易に取り入れられる介入は、口腔衛生の格差を減らす可能性を秘めています。
研究の強みと制限
強み
- 新しい介入設計:完全に用量を一致させた対照条件でテストされた双方向のゲーム化介入。
- 長期間のフォローアップ:介入効果の持続性に関する24か月間のデータを提供。
- 高い参加率:回答率67.9%-69.6%と高い介入受容度を示した点。
制限
- COVID-19の影響:パンデミックにより一部の参加者が24か月の健康評価を完了できませんでした。
- 自己報告の偏り:歯磨き行動が自己報告に基づいて評価されたため、回想バイアスの可能性があります。
- 多重比較:多数の時間効果比較を実施しましたが補正は行われていません。
総括
本研究は、ランダム化比較試験に基づき、低所得層および少数民族の子どもとその保護者の口腔衛生行動を改善する上で、保護者向け口腔衛生メッセージ介入の効果を検証しました。虫歯増加を直接減らすことはできませんでしたが、介入方法の低負担性と高い受容率により、特に口腔衛生格差を減少させる点での普及可能性が示されました。