大きな脳転移患者の術前定位放射線治療の用量増加第I相試験
この報告は、脳転移腫瘍患者に対し、術前単回線源加療(SRS)を行い、段階的に線量を増加させた第1相臨床試験の結果を示している。直径2cmを超える脳転移腫瘍に対し、単独の手術切除やSRSでは局所制御が困難なことから、術前SRSと手術切除の併用により局所制御率の向上と合併症リスクの低減を目指した。
本研究はCleveland ClinicのErin S. Murphyらによって2013年9月から2022年6月にかけて実施された。腫瘍直径が>2-3cm、>3-4cm、>4-6cmの3群に分け、それぞれ18、15、12 Gyから開始し、3 Gy毎に線量を増量し、用量制限毒性(DLT)を評価した。
35症例/36病変が登録された。>2-3cm群では2回目の線量レベル21 Gyまで増量されたが、>3-4cm群と>4-6cm群では3回目の線量レベル21、18 Gyまで到達した。>3-4cm群の21 Gyで2例のDLT(Grade 3の創傷裂開と感染)が観察されたため、この群の最大耐用線量(MTD)は18 Gyと決定された。>4-6cm群のMTDも18 Gyであった。
中央値64か月の術後観察期間において、6か月および12か月の局所制御率はそれぞれ85.9%および76.6%であった。Grade 3の放射線壊死が1例、くも膜播種が1例みられた。研究者らは、術前SRSと手術切除の併用療法は許容できる急性毒性を示し、MTD下での有効性をII相試験で評価する予定である。
本研究の革新的な点は、脳転移腫瘍に対する術前単回SRSにおける段階的線量増加の安全性を初めて系統的に検討したことにある。これにより、今後の脳転移腫瘍の局所制御率向上への新たな方向性が示された。本療法の急性有害事象は許容範囲内であり、局所再発率は低く、髄膜播種リスクの増加は認められなかった。この戦略は、現状では予後不良な脳転移腫瘍の予後改善にもつながる可能性がある。