新生児発達期のmTOR関連てんかん発作を選択的に老化細胞を標的とする薬剤で軽減できる

これは、皮質形成異常(FCD)II型に関する研究報告です。著者らは、FCDIIにおける細胞老化の存在を探り、これらの老化細胞を標的とすることで発作を軽減できるかどうかを試みました。

背景紹介: FCD IIは、小児期の発作と発達遅滞の一般的な原因となる皮質形成異常疾患です。PI3K-AKT-mTOR経路遺伝子(AKT3、DEPDC5、mTOR、PIK3CAなど)の体細胞モザイク変異が原因で、一部の神経細胞でmTOR経路が過剰に活性化され、異常な大型神経細胞(dysmorphic neurons, DNs)と気球細胞(balloon cells, BCs)が正常皮質組織に散在します。FCD IIは通常、抗てんかん薬に反応せず、てんかん焦点の外科的切除が必要です。DNsとBCsの分子メカニズムとてんかん活動との関連を明らかにすることは、新たな治療標的を見出すために重要です。

研究プロセス: 1. 2例のFCD II患者から切除された皮質組織の細胞外電気活動を多電極アレイで記録し、てんかん様放電(interictal-like discharges, IILDs)と多単位活動(multi-unit activity, MUA)の領域を発見しました。DNsの密度はこれらの活動領域と正の相関がありました。

  1. FCD II 22例と対照13例の標本で、老化マーカー(SA-β-gal、p53、p16など)の染色を行ったところ、DNsとBCsに細胞老化フェノタイプが見られましたが、正常神経細胞と対照組織では見られませんでした。

  2. depdc5欠損マウスモデルでも神経細胞に老化フェノタイプが現れ、mTOR経路活性化と細胞外マトリックス分泌表現型(SASP)を伴っていました。

  3. mtorS2215F モザイク変異マウスモデルでは、9日間の老化阻害薬dasatinib/quercetin(D/Q)投与により、DNsが約70%減少し、発作頻度が低下しました。さらに、投与中止1ヶ月後も発作頻度は低値を維持していました。

  4. D/Qは野生型マウスに明らかな副作用はなく、ペンチレンテトラゾール誘発てんかんモデルではD/Qに抗てんかん作用はありませんでした。これは、D/Qの治療効果が老化細胞を標的としていることを示唆します。

まとめ: 本研究は、FCD IIにおいてDNsとBCsに細胞老化フェノタイプが存在し、てんかん活動と関連していることを初めて発見しました。老化細胞除去薬D/Qを使うことで、これらの病的老化細胞を選択的に除去し、発作を軽減できます。これは、mTOR経路関連の皮質形成異常てんかん に対する新しい精密治療戦略を開きます。FCD IIはモザイク性疾患なので、老化阻害療法は超精密治療手段になり得ます。本研究はmTOR経路関連疾患の標的治療に新たな方向性を示しています。

本研究は、細胞電気生理、分子病理、遺伝子改変動物モデル、薬物介入などの多様な手法を組み合わせており、重要な理論的意義と臨床応用の可能性を有しています。