固形腫瘍患者におけるレゴラフェニブ:TAPUR研究の結果

RegorafenibのBRAF変異実体腫瘍患者における応用:TAPUR試験結果のまとめ

背景紹介

BRAF遺伝子は細胞質セリン-スレオニンキナーゼファミリーに属し、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼシグナル経路(MAPK)を活性化することで細胞増殖と生存を調節します。BRAF変異はその異常活性を引き起こし、腫瘍形成を促進します。BRAF変異は三つのカテゴリーに分けられます:I類はV600位点変異で、Ras非依存性活性化モノマー;II類変異はRas非依存性活性化ダイマー;III類はキナーゼ欠失性変異で、CRAFの活性化を助長します。BRAF変異はメラノーマ(約40%)、甲状腺癌、大腸癌(CRC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、および胆管癌に一般的です。

Regorafenibは小分子多ターゲットチロシンキナーゼ阻害剤であり、ABL、DDR2、EGFR、EPHA2、FGFR、KIT、PDGFR、PTK5、RAF、RET、SAPK2、TIE2、TRKA、そしてVEGFRなどのタンパク質を標的とし、血管新生、腫瘍形成および細胞増殖に総合的に作用します。これは米国食品医薬品局(FDA)により転移性CRC、胃腸間質腫瘍(GIST)、および肝細胞癌(HCC)の治療に承認されています。

研究の出典

この研究はVaibhav Sahai、Michael Rothe、Pam K. Mangat、Elizabeth Garrett-Mayer、Vijay Suhag、およびElie G. Dibらによって共同で行われました。著者らはミシガン大学Rogel癌センターや米国臨床腫瘍学会(ASCO)など複数の機関に所属しています。この研究は2024年2月21日に《JCO Precision Oncology》雑誌に発表され、DOIはhttps://doi.org/10.1200/po.23.00527です。

研究目的と方法

研究目的

この研究は市販のターゲット薬RegorafenibがBRAF遺伝子変異を持つ進行癌患者における抗腫瘍活性を評価することを目的としています。研究はBRAF遺伝子変異を持つ実体腫瘍患者のRegorafenib治療後の効果を分析しました。

研究方法

TAPUR研究はオープンラベル、非ランダム化のII相単一バスケット試験であり、FDA承認済みだが他の適応症に使用されるターゲット薬の特定遺伝子変異進行癌患者における効果を評価することを目的としています。

研究の流れ

  1. 被験者選択および分組:Measurable Disease(測定可能な病気、RECIST v.1.1基準による)、Eastern Cooperative Oncology Group パフォーマンスステータススコア(ECOG PS)0-1、適切な臓器機能を持ち、他の標準治療選択肢のない患者を募集。研究の主要エンドポイントは16週以上の安定病(SD161)の病気制御率(DC)。

  2. 遺伝子検査と治療計画:被験者が入組基準を満たすためには、臨床検査改善修正法案(CLIA)承認の遺伝子検査を実施。全患者は1日1回160mgの口服Regorafenibを受け、治療サイクルは28日間のうち21日間治療。

  3. データ分析:片側正確二項検定で結果を評価し、主要エンドポイントの片側90%信頼区間(CI)を提供。二次エンドポイントには客観的反応率(OR)、無進行生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、反応持続時間、安定病持続時間及び安全性が含まれる。

データ収集および評価

2016年6月から2021年6月まで、合計28名の患者が募集されました。これらの患者はBRAF変異を持ち、12種類の異なる腫瘍タイプを有しました。全患者が有効性評価基準に準拠しました。DC率は正確な片側二項検定によって評価され、二次エンドポイントはKaplan-Meier曲線でPFSおよびOS分布を推定しました。

主要研究結果

病気制御および反応率

  • 病気制御率(DC):DC率は21%(90% CI,12〜100)。
  • 客観的反応率(OR):ORは7%(95% CI,1〜24)。

予想クリニカル活性基準に達せず:15%のDC率を仮定する零仮説に対するP値は0.24で、零仮説を棄却できなかった。

副作用

  • 8名の患者がRegorafenib関連の3級副作用もしくは重篤な副作用を経験。これには高血圧、疲労、低ナトリウム血症、貧血、便秘などが含まれる。

生存期間および病程

  • 中位無進行生存期間(PFS):8週間(95% CI,8〜15)。
  • 中位総生存期間(OS):28週間(95% CI,17〜41)。

結論と議論

この研究は、Regorafenibが予想した臨床活性基準に達しなかったことを示しました。しかし、一部の患者、特にBRAF II類およびIII類変異を持つ患者に病気制御反応が観察され、さらなる研究の必要性が示唆されました。特に、現存FDA承認のBRAF阻害剤がBRAF I類変異(特にV600E位点)のみに有効であることを考慮すると重要です。

研究のハイライトと意義

  • 研究のハイライト:この研究は大規模な遺伝子検査に基づき、Regorafenibの多種多様なBRAF変異実体腫瘍患者における有効性を系統的に評価する初めての事例です。
  • 科学および応用価値:この研究は、Regorafenibおよびその組み合わせ療法がBRAF変異特定のタイプの腫瘍患者における潜在的な応用について、今後の探求に重要な指導的意義を持っています。

制限と提言

この研究のサンプル量が限られており、対照群がなく、患者の腫瘍タイプが多様であるため、特定の腫瘍タイプの有効性について結論を出すのは難しいです。さらに、Regorafenibは多ターゲット阻害剤として特異性が低いため、他のシグナル経路阻害剤との組み合わせ療法の治療効果を検討する必要があります。

Regorafenibが予想された有効性基準に達しなかったにもかかわらず、この研究はBRAF II類およびIII類変異腫瘍の治療をさらに研究および最適化するための重要な参考資料を提供しました。