ミクログリアにおけるTGFβ活性化キナーゼ-1の活性化をターゲティングすることで、CAR T免疫効果細胞関連の神経毒性症候群を軽減する
この研究では、研究者は癌抗原受容体(CAR)T細胞療法関連の免疫効果細胞誘発性神経毒性症候群(ICANS)におけるTAK1活性化経路の役割を探求しました。彼らはマウスICANSモデルを確立し、CAR19 T細胞の移植後、小脳細胞が活性化され、形態の変化が起こり、活性化マーカー(CD80、CD11c、主要組織適合性複合体クラスII分子など)の発現が増加することを発見しました。
マイクロアレイとシングルセルRNA解析により、活性化した小脳細胞においてTNF、CCL2、GM-CSFなどの炎症促進因子とそれらの関連経路遺伝子の発現が上方制御されていることが示されました。行動学的試験では、CAR19 T細胞療法を受けたマウスでは、不安の増加、記憶力の低下などの認知機能障害が認められ、血液脳関門の透過性も増加していました。遺伝子ノックアウトやTAK1阻害剤(Takinib)を用いた解析から、小脳細胞におけるTAK1活性の阻害が上記の認知機能障害を改善することが判明し、CAR T細胞の抗腫瘍活性には影響しないことがわかりました。
ヒト検体解析では、質量分析イメージングと免疫組織化学的手法により、ICANS患者の小脳細胞が活性化されており、TSPO-PETでもこの活性化が検出できることが実証されました。総じて、本研究は小脳細胞がICANS発症機構において重要な役割を果たすことを明らかにし、TAK1が潜在的な治療標的となり得ることを示唆しました。これにより、ICANSの重症度を軽減しつつ、CAR T細胞の抗腫瘍活性を維持できる可能性があります。
導入部では、CAR T細胞療法のリンパ腫や白血病への適用と、ICANSの臨床症状および発症機序に関する現在の理解が簡潔に紹介されています。次に、本研究の著者と掲載誌が紹介されています。
方法論の項では、実験手順が詳しく説明されています。まず、B細胞非ホジキンリンパ腫(B-NHL)およびB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)マウスモデルにおいて、同種CAR19 T細胞を移植し、小脳細胞の形態と マーカー変化を観察しました。シングルセルRNA解析やマイクロアレイなどの手法を用いて、小脳細胞の転写プロファイルと活性化経路を解析しました。さまざまな行動学的試験でマウスの認知機能を評価し、血液脳関門の透過性も検討されました。
遺伝子ノックアウトとTAK1阻害薬を用いてTAK1活性を抑制し、小脳活性化と認知機能の変化を観察しました。さらに、CAR T細胞の細胞傷害活性への影響も解析されました。最後に、ICANS患者の剖検検体を用いて、質量分析イメージングと免疫組織化学的手法で小脳活性化を検出し、TSPO-PET画像も撮影されました。
結果の項では、主な発見事項が記載されています。CAR19 T細胞療法後、マウス小脳細胞は顕著な形態変化を示し、CD80、CD11c、MHC-IIクラス分子の発現が増加しました。転写プロファイル解析から、これらの活性化小脳細胞においてTNF、CCL2、GM-CSFなどの炎症促進因子および関連経路遺伝子の発現が顕著に上方制御されていることがわかりました。
行動学的試験により、CAR19 T細胞療法を受けたマウスに不安や記憶力低下などの認知機能障害があり、血液脳関門の透過性も亢進していることが確認されました。遺伝子ノックアウトと薬物阻害実験から、小脳細胞内のTAK1-NF-κB-p38 MAPK経路を阻害することで上記の認知機能障害が改善され、CAR T細胞の抗腫瘍活性には影響がないことがわかりました。一方、通常の副腎皮質ステロイド療法は神経症状は改善するものの、CAR T細胞の抗腫瘍活性を抑制することが示唆されました。
ICANS患者検体の解析では、質量分析イメージングにより、対照群と比較してICANS患者の小脳細胞において活性化された骨髄細胞/単球系細胞集団が顕著に増加しており、HLA-DR、CD74、CD204、CD163などの活性化マーカーの発現が認められました。免疫組織化学的解析でも、ICANS患者の白質内に多数の活性化小脳細胞の浸潤が確認されました。さらに、TSPO-PETイメージングでは、ICANS患者の小脳においてTSPOの顕著な上昇が観察され、小脳細胞の活性化が示唆されました。
総括部分では、本研究がICANSの発症機序における小脳細胞の役割を明らかにし、TAK1が潜在的な治療標的となり得ることを初めて実証したことが強調されています。TAK1阻害はICANSの重症度を軽減しつつ、CAR T細胞の抗腫瘍活性を維持できる可能性があり、ICANSの臨床治療に新たな方向性を示すものです。