新たに発見されたNUMB機能喪失変異が引き起こす高尿酸血症と痛風のメカニズムに関する研究

NUMB遺伝子変異と痛風発症メカニズムの新たな探求

背景

痛風は世界で最も一般的な炎症性関節疾患の一つで、その主な原因は血中尿酸(uric acid)濃度の持続的な上昇、つまり高尿酸血症(hyperuricemia)です。高尿酸血症は尿酸塩結晶の沈着を引き起こし、関節やその他の組織に炎症を誘発します。痛風の発症は遺伝的および環境的要因と密接に関連していますが、その正確な分子メカニズムは完全には解明されていません。尿酸の代謝バランスは、主に肝臓による生成と腎臓および腸管による排泄によって維持されています。このうち、尿酸の約70%が腎臓を介して排泄されます。しかし、尿酸排泄異常の分子メカニズムについては多くの未解明点が残されています。

最近、青島大学附属病院とスウェーデン・カロリンスカ研究所の研究チームが、家族性遺伝性痛風と関連するNUMB遺伝子の希少変異を全ゲノムシーケンスで発見しました。この研究は《Cell Discovery》誌に掲載され、NUMBタンパク質が尿酸排泄を調節する上での重要な役割およびその変異が痛風を引き起こす分子メカニズムを明らかにしました。


研究の起源と背景

NUMBは保存性の高いクラスリンアダプタープロテインであり、細胞の運命決定に重要な役割を果たしています。NUMBは細胞膜タンパク質と結合することで、エンドサイトーシスや細胞内輸送に関与します。しかし、尿酸排泄におけるNUMBの役割はこれまで報告されていませんでした。本研究では、NUMB遺伝子変異が尿酸排泄異常や痛風発症と関連しているかどうかを調べ、それに関連する分子メカニズムを明らかにすることを目的としました。


研究方法

研究チームは中国・山東省の遺伝性痛風患者の家族と300人の散発性痛風患者を対象に研究を行いました。全エクソンシーケンス(WES)を用いて、痛風と関連するNUMB遺伝子の希少変異を特定しました。細胞実験、マウスモデル、プロテオミクス分析を組み合わせて、NUMB変異が尿酸代謝に及ぼす影響を詳細に検討しました。

1. 家族と遺伝子変異の特定

対象となった家族では、5世代83人のうち11人が痛風と診断されました。WES解析により、すべての痛風患者にNUMB遺伝子変異(R630H)が見つかりました。この変異は健常な家族メンバーや300人の散発性痛風患者では検出されませんでした。

2. NUMBと尿酸輸送タンパク質ABC-G2の相互作用

研究により、NUMBがABC-G2タンパク質のYxNxxFモチーフと結合し、腎臓の尿細管上皮細胞(RTECs)における膜表面での分布を調節することが明らかになりました。免疫沈降および蛍光共局在実験を通じて、NUMBとABC-G2の直接的な相互作用が確認されました。

3. NUMB変異による細胞内分布と機能への影響

NUMB R630H変異はNUMBタンパク質の異常凝集を引き起こし、オートファジー(autophagy)を介して分解され、細胞内のNUMBレベルが著しく低下することが示されました。CRISPR-Cas9によるNUMB遺伝子のノックアウトにより、ABC-G2タンパク質の極性細胞膜分布が乱れ、頂端膜から基底膜へ移行し、尿酸排泄障害が引き起こされました。

4. NUMB変異マウスモデルの表現型解析

研究チームは遺伝子ノックイン技術を用いてNUMB R630H変異を持つマウスモデルを作成しました。このマウスは正常マウスと比較して、顕著な高尿酸血症と尿酸排泄の減少を示しました。また、変異マウスの腎尿細管におけるABC-G2タンパク質の頂端膜定位が減少し、腎組織に慢性尿酸性腎症が観察されました。


研究結果

1. NUMBタンパク質の新機能

本研究は、NUMBタンパク質がABC-G2タンパク質の頂端膜定位を誘導することで尿酸排泄を調節する重要な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。この新機能は、NUMBが細胞極性を調節する新たなメカニズムの証拠を提供します。

2. NUMB R630H変異の病因メカニズム

NUMB R630H変異は、機能性NUMBタンパク質の発現を減少させ、ABC-G2タンパク質の頂端膜輸送を妨げることで、尿酸排泄障害および高尿酸血症を引き起こします。さらに、この変異は腎尿細管の構造異常や炎症反応の増加をもたらします。

3. マウスモデルによる検証

NUMB変異マウスモデルは、人間の高尿酸血症および関連する腎疾患の表現型を成功裏に再現しました。このマウスモデルは、尿酸代謝調節や痛風治療の研究において理想的なツールとなる可能性があります。


研究の意義

1. 痛風発症メカニズムの新たな視点

本研究は、NUMBタンパク質が尿酸排泄を調節することで痛風発症において果たす重要な役割を明らかにし、痛風の分子メカニズムを理解するための新たな視点を提供します。

2. 臨床診断と治療の可能性

NUMB変異の特定は、遺伝性痛風の分子診断に新たなターゲットを提供します。また、NUMB機能を回復させる薬剤やABC-G2タンパク質の定位を調節する薬剤が、高尿酸血症や痛風の治療法として期待されます。


研究の展望

将来的には、NUMBが他の膜タンパク質の極性分布において果たす役割や、他の疾患との潜在的な関連性を探ることが求められます。さらに、NUMB機能を調節する治療分子の開発は、痛風および関連疾患の治療の進展を促進する可能性があります。