機械学習と確認的因子分析により、ブプレノルフィンが雄雌肥満C57BL/6Jマウスの運動および不安様行動を変化させることが示される

近年、世界的な薬物乱用、特にオピオイドの乱用の増加に伴い、科学者たちはこれらの薬物の神経行動学的影響にますます注目しています。その中でも、ブプレノルフィン(Buprenorphine)はオピオイド系薬物として、オピオイド依存症の治療に広く使用されています。しかし、ブプレノルフィンは鎮痛や依存症治療の効果だけでなく、不安症状に対して一定の臨床的管理効果があるとも報告されています。ただし、不安は人間において非常に普遍的な疾患である一方、潜在的な心理的構築として直接測定することが難しいため、特に動物モデルではその評価が困難です。そこで、本研究では、機械学習技術と確認的因子分析(Confirmatory Factor Analysis, CFA)を組み合わせて、ブプレノルフィンがC57BL/6Jマウスの運動行動と不安様行動に及ぼす影響を評価し、その効果が投与量、性別、体重とどのように関連するかを探ることを目的としています。

論文の出典

この研究は、The University of TennesseeOhm SharmaMichael MykinsRebecca E. Bergeeなど、複数の研究者によって共同で行われました。研究チームは、同大学のNeuroscience Program in PsychologyDepartment of Biochemistry & Cellular and Molecular BiologyOffice of Innovative Technologiesなど、複数の部門から構成されています。論文は2024年12月31日Journal of Neurophysiologyに初めて掲載され、2025年2月10日に正式に公開されました。

研究の流れと方法

研究対象と実験デザイン

研究では、C57BL/6Jマウスを30匹使用し、正常体重の雄マウス(n=10)、正常体重の雌マウス(n=10)、そして食餌誘導性肥満の雄マウス(n=10)の3つのグループに分けました。マウスは12週齢時にJackson Laboratoryから購入され、到着後2〜3週間の環境適応期間を経て実験に使用されました。すべての実験手順は、University of TennesseeInstitutional Animal Care and Use Committee (IACUC)の審査を通過し、ARRIVE-2ガイドラインに従って実施されました。

実験手順

  1. 薬物投与:実験の対照フェーズでは、すべてのマウスに0.3 mLの0.9%生理食塩水(vehicle control)を皮下注射しました。14日後、マウスには1.0 mg/kgまたは10 mg/kgのブプレノルフィンを投与し、繰り返し測定の組内デザインを採用しました。投与後1時間、マウスを高架ゼロ迷路(Elevated Zero Maze, EZM)に置き、5分間の行動観察を行いました。

  2. 行動記録と分析:実験では、高解像度カメラ(1080p、30フレーム/秒)を使用してマウスのEZM内での行動を記録し、記録した動画をクラウドにアップロードし、DeepLabCut (DLC)およびSimple Behavioral Analysis (SimBA)ソフトウェアを使用して自動的な姿勢推定と行動分析を行いました。DLCは、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN)を使用してマウスの7つの身体部位(鼻、左耳、右耳、肩、背骨の中央、左後脚、右後脚、尾の付け根)をマーキングおよび追跡し、迷路内での位置の2次元デジタルモデルを生成しました。

  3. データ分析:研究では、5つの運動行動を分析しました。これには、マウスがEZMの開放領域に滞在した時間、開放領域に入るまでの遅延、走行速度、移動距離、そして頭を下げる行動(Head Dips, HD)および伸びて観察する姿勢(Stretch-Attend Postures, SAP)の頻度が含まれます。データ分析には、繰り返し測定の混合モデル分散分析(ANOVA)と確認的因子分析(CFA)が使用され、ブプレノルフィンがマウスの不安様行動に及ぼす影響を評価しました。

主な研究結果

  1. ブプレノルフィンが運動行動に及ぼす影響:研究結果によると、ブプレノルフィンはマウスの5つの運動行動を有意に変化させました。具体的には、雄マウスでは、ブプレノルフィン投与後にEZMの開放領域に滞在する時間が有意に減少し、開放領域に入るまでの遅延が有意に増加しました。また、走行速度と移動距離も有意に増加しました。雌マウスと肥満マウスでも走行速度と移動距離に同様の変化が見られましたが、肥満マウスの変化はそれほど顕著ではありませんでした。

  2. 確認的因子分析の結果:CFAの結果では、不安様行動という潜在的な構築が、5つの運動行動の分散に対し統計的に有意な説明力を示しました。具体的には、不安様行動の構築が運動行動の分散の28%を説明しており、ブプレノルフィンが不安様行動を通じてマウスの運動行動に有意な影響を与えていることが示されました。

結論と意義

本研究の結論は、ブプレノルフィンが不安様行動を変化させることでマウスの運動行動に影響を与えるという仮説を支持しています。この発見は、ブプレノルフィンの神経行動学的作用に対する理解を深めるだけでなく、将来の不安治療におけるブプレノルフィンの潜在的な応用に新たな視点を提供しています。さらに、この研究は、機械学習技術が動物行動研究において特に自動化された行動分析や潜在的な心理的構築の定量化において強力な応用可能性を持っていることを示しています。

研究のハイライト

  1. 新しい研究方法:本研究では、DeepLabCutSimple Behavioral Analysisなどの機械学習アルゴリズムを初めてブプレノルフィンがマウスの運動行動および不安様行動に及ぼす影響の研究に応用し、行動分析の客観性と精度を大幅に向上させました。

  2. 多角的な研究デザイン:研究では、投与量、性別、体重がブプレノルフィンの効果に及ぼす影響を調べ、初めて異なる生理的条件下での不安様行動に対するブプレノルフィンの差異的な影響を明らかにしました。

  3. 理論的貢献:研究結果は、ダーウィンの「感情表現の進化的連続性」理論を支持し、マウスの不安様行動が人間の不安感情と同様の生物学的基盤を持つことを示しています。

その他の有用な情報

研究はまた、ブプレノルフィンが人間において不安やうつ病の併存症治療においてどのように利用できるかについても強調しています。ブプレノルフィンはすでにオピオイド依存症の治療に広く使用されていますが、不安管理におけるその役割についてはさらなる研究が必要です。さらに、研究では、慢性のブプレノルフィン曝露がマウスの不安様行動に及ぼす長期的な影響についても示唆しており、今後の研究の新たな方向性を提供しています。