PRMT9媒介したアルギニンメチル化をターゲットにすることで、がん幹細胞の維持を抑制し、CGASを介したがん免疫を引き起こす
この研究はタンパク質アルギニンメチル化酵素PRMT9に焦点を当て、急性骨髄性白血病(AML)におけるその重要な役割と潜在的な抗がん標的であることを明らかにしました。研究者らは、PRMT9がAML幹細胞及び白血病細胞で著しく高発現していることを発見しました。遺伝子編集と化学プローブを用いた実験により、PRMT9の阻害は癌細胞の生存を抑え、DNA損傷と細胞周期停止を誘導し、細胞内のcGAS-STINGシグナル経路を活性化することで、I型インターフェロン応答を引き起こし、樹状細胞を活性化してT細胞免疫を刺激することが分かりました。
本研究はジョンズホプキンス大学のLing Li博士とその共同研究者によって行われ、その成果は2024年4月発行の「ネイチャー・キャンサー」誌に掲載されました。
研究の詳細は以下の通りです。
1.研究背景 現在の抗がん治療法では、大部分の癌細胞を殺傷できるものの、癌細胞が未知のメカニズムにより正常のアルギニンメチル化過程を利用して生存を促進することから、完全な根治が困難になっています。PRMT9は比較的研究の少ないアルギニンメチル化酵素ですが、その活性は様々ながんと関連しています。
2.研究方法と作業フロー 研究チームは、まず白血病細胞と正常幹細胞におけるPRMT9の発現レベルを分析し、AML幹細胞でその発現が著しく上昇していることを発見しました。次に、PRMT9条件付き欠損マウスモデルを作製し、正常造血と白血病発症におけるPRMT9の役割を調べました。
PRMT9の潜在的阻害剤を探索するため、96万種の化合物からバーチャルスクリーニングを行い、小分子化合物LD2をPRMT9の触媒活性を特異的に阻害する化合物として同定しました。
3.主要な研究結果 体内外の実験で、PRMT9欠損またはLD2阻害剤処理により、AML細胞の活性が顕著に低下し、細胞周期停止とDNA損傷が誘導されることがわかりました。メカニズム解析の結果、PRMT9阻害によりその下流基質XRN2のアルギニンメチル化レベルが低下し、DNA損傷とcGASキナーゼの活性化が引き起こされ、cGAMPなどのSTING活性化剤が産生され、I型インターフェロン応答が刺激されることが判明しました。
マウス白血病モデルでは、PRMT9ノックダウンまたはLD2処理により、マウスの生存期間が顕著に延長しました。シングルセル転写解析では、PRMT9阻害により樹状細胞と細胞傷害性T細胞が活性化され、制御性T細胞の割合が低下し、強力な抗腫瘍免疫応答が誘導されることが示されました。さらなる研究から、この抗がん免疫効果はPRMT9阻害によるcGAS-STING経路の活性化に依存していることがわかりました。
4.研究の意義 本研究は、PRMT9がAMLの発症と進行に鍵となる役割を果たしていることを明らかにし、AMLの精密医療に向けた新たな標的を提供しました。さらに、PRMT9阻害剤がcGAS-STING経路を介して宿主の抗腫瘍免疫を活性化し、PD-1阻害剤と相乗的に作用することから、AMLの免疫療法への新たなアプローチも示唆されています。
この革新的で価値の高い研究は、PRMT9が腫瘍発生と免疫逃避において果たす分子メカニズムを深く解明するだけでなく、PRMT9小分子阻害剤も開発しており、白血病の臨床治療に新たな希望をもたらすものです。