グリシン代謝および神経発達障害におけるGTDc1の役割を支持するさらなる証拠
近年の神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders、略称NDDs)に関する研究において、研究チームは単一ヌクレオチド変異(Single Nucleotide Variants、SNVs)から構造的大変化(例えば染色体再配列)までの幅広いNDDsに関連する遺伝的変異を多数発見しました。このような研究背景の下、イタリアのパヴィア大学、インスブリア大学、その他の機関からEdoardo Errichiello、Mauro Lecca、Chiara Vantaggiatoらの研究者が、特定の遺伝的要因であるGlycosyltransferase-Like Domain Containing 1(GTDc1)遺伝子と特定の神経発達障害との関連について詳細な調査を行いました。この研究成果は2024年に「European Journal of Human Genetics」に掲載され、タイトルは「Further evidence supporting the role of GTDC1 in glycine metabolism and neurodevelopmental disorders」です。
研究背景と意義
神経発達障害は脳の発達と機能に影響を与え、一連の神経学的および精神的疾患の症状を引き起こします。現在、NDDsの診断の主要な戦略の一つは、関連する遺伝的変異を識別することであり、その中でもコピー数変異(Copy Number Variants、CNVs)は重要な遺伝的変異タイプの一つとして、NDDsの遺伝的原因の約15-20%を占めています。GTDC1遺伝子は神経系で特に豊富に発現する糖転移酵素をコードしています。研究チームは以前の研究で、GTDC1遺伝子の機能障害が全般的発達遅滞および言語発達遅滞と関連していることを発見しました。そこで、彼らはGTDC1遺伝子の新たに発見された変異の機能レベルでの研究を通じて、GTDC1遺伝子変異が神経発達に与える影響とNDDsとの関連性のより深いメカニズムを探求することを目指しました。
研究方法と発見
研究チームは染色体マイクロアレイ解析(CMA)と定量PCRなどの技術を用いて、女性NDD患者の2q22.3位置にGTDC1遺伝子の第5-6エクソンを含む約67 kbの内因性欠失を発見しました。RNAシーケンシングおよびその他のバイオインフォマティクスツールによる分析により、この欠失がグリコーゲン/セリンおよびサイトカイン/ケモカインシグナル伝達経路の発現変化を引き起こし、セリンとグリシン濃度の上昇を伴うことが示されました。
結論と意義
研究はGTDC1の発現低下が神経発達障害に寄与する潜在的なメカニズム、特にグリシン代謝の変化を通じてNDDsの発生に影響を与えることを明らかにしました。さらに、この研究はGTDC1関連疾患の表現型スペクトルを拡大し、小頭症とてんかんをGTDC1機能喪失の臨床的特徴として位置付けました。この発見はNDDsの遺伝的基盤に関する理解を深めるだけでなく、将来の診断と治療に新たな視点を提供する可能性があります。
研究のハイライト
- GTDC1遺伝子変異と特定のNDD疾患の発生を直接関連付けた初めての研究。
- 遺伝子変異から疾患表現型までの完全な研究経路を提供。
- 複雑な疾患の遺伝メカニズムを解明する上でのマルチオミクスアプローチの重要性を強調。
この研究は、GTDC1遺伝子の神経発達における役割に関する新たな洞察を提供するだけでなく、NDDsの診断と治療におけるゲノミクスと機能的ゲノミクスの統合的アプローチの重要性を強調しています。