1990年から2019年までの非悪性上部消化管疾患の負担の世界的、地域的、国家的パターンと今後10年間の予測
非悪性上部消化管疾患の世界的な負担の変化と将来予測
学術的背景
非悪性上部消化管疾患、例えば消化性潰瘍(Peptic Ulcer Disease, PUD)、胃炎および十二指腸炎(Gastritis and Duodenitis, GD)、そして胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease, GERD)は、世界的な医療システムにとって大きな課題です。これらの疾患は患者の健康に影響を与えるだけでなく、社会経済の発展や医療システムのアクセス性と効率性の問題を浮き彫りにしています。これらの疾患の発生率は世界的に高いものの、その負担は地域、年齢、性別によって大きく異なります。これらの疾患の世界的な負担と社会経済発展指数(Sociodemographic Index, SDI)との関係をより深く理解するために、研究者は世界疾病負担(Global Burden of Disease, GBD)データベースを利用し、1990年から2019年までのPUD、GD、GERDの世界的な負担を包括的に評価し、今後10年間の傾向を予測しました。
論文の出典
この研究は、南京小児病院と南京医科大学胸部外科のZihao Bai、Hao Wang、Chong Shen、Jia An、Zhaocong Yang、Xuming Moによって共同で行われました。論文は2024年7月3日に『International Journal of Surgery』誌にオンライン掲載され、タイトルは「The global, regional, and national patterns of change in the burden of nonmalignant upper gastrointestinal diseases from 1990 to 2019 and the forecast for the next decade」です。
研究の流れ
データの出典と方法
研究データはGBD 2019データベースから取得され、国勢調査、家庭調査、疾病登録、医療サービス利用記録など、さまざまなデータソースを統合しています。研究者はPUD、GD、GERDの障害調整生存年数(Disability-Adjusted Life Years, DALYs)データを抽出し、SDIと組み合わせて健康格差を分析しました。研究では、不平等勾配指数(Inequality Slope Index)と集中指数(Concentration Index)を使用して、各国間の疾病負担の差異を測定しました。さらに、人口増加、高齢化、疫学的変化が疾病負担に与える影響を評価するために分解分析を行いました。
研究結果
世界的な疾病負担の変化
研究によると、1990年から2019年の間に、非悪性上部消化管疾患の年齢標準化DALYs率は減少しましたが、地理的な異質性は依然として顕著であり、SDIと密接に関連しています。低SDI国の疾病負担は高く、人口増加と高齢化が疾病負担の増加の主な要因となっています。発展レベルが異なるにもかかわらず、多くの国ではこれらの疾患の負担を減らすための大きな潜在的可能性があります。
疾病負担の不平等分析
研究によると、PUDの疾病負担は低SDI国で最も顕著であり、1990年から2019年の間に不平等の程度は減少しました。一方、GERDの健康格差は低く、過去数十年間にわたって比較的安定しています。GDの疾病負担は低中SDI国で特に顕著です。
将来予測
ベイジアン年齢-期間-コホートモデル(Bayesian Age-Period-Cohort Model, BAPC)に基づいて、研究では2030年までに世界的なPUDのDALYsが11.7%減少し、GERDとGDのDALYsはそれぞれ21.3%と13.2%増加すると予測しています。異なるSDI地域での疾病負担の変化傾向には大きな違いがあり、高SDI地域ではGERDの負担が増加すると予測されている一方、低SDI地域ではPUDの負担が大幅に減少すると予測されています。
結論と意義
この研究は、非悪性上部消化管疾患の世界的な負担を包括的に評価し、地域、年齢、性別による顕著な差異を明らかにしました。研究結果は、世界的な疾病負担が減少しているものの、低SDI国では依然として疾病負担が高く、高リスクグループに対する予防と治療戦略の策定が急務であることを示しています。さらに、研究は人口増加と高齢化が疾病負担に与える深い影響を強調し、将来の公衆衛生政策の策定に重要な根拠を提供しています。
研究のハイライト
- 世界的な視点:研究は204の国と地域をカバーし、非悪性上部消化管疾患の世界的な負担を包括的に評価しました。
- 健康格差分析:SDIを組み合わせることで、異なる社会経済的背景における疾病負担の顕著な差異を明らかにしました。
- 将来予測:BAPCモデルを使用して、今後10年間の疾病負担の変化傾向を予測し、公衆衛生政策の策定に先見的な指針を提供しました。
- 分解分析:分解分析を通じて、人口増加、高齢化、疫学的変化が疾病負担に与える影響を定量化し、疾病負担の変化メカニズムを理解するための新しい視点を提供しました。
その他の価値ある情報
研究では、世界的にPUDとGDの負担が減少している一方で、GERDの負担は特に高SDI地域で増加していることも指摘されています。これは、現在の公衆衛生戦略がGERDの管理においてまだ改善の余地があることを示しています。さらに、研究は世界的および地域的な協力の強化、診断および治療サービスのアクセス性の向上、そして高リスクグループに対する特別な健康介入策の重要性を強調しています。
この研究は、非悪性上部消化管疾患の世界的な負担に関する新しい洞察を提供し、将来の公衆衛生政策の策定と実施に重要な参考資料を提供しています。