ヒト腸内細菌叢におけるエコ-進化フィードバック

タイトル: 人体腸内細菌叢の進化と生態構造の変化との関連性

背景: 人体の腸内には数百種類の微生物が存在し、それらの間には複雑な生態学的相互作用がある。近年の研究で、腸内細菌が人間に関連する時間スケールで進化することが分かってきたが、この進化が局所の微生物群集の組成変化にどのように影響を与える(または影響を受ける)かはほとんどわかっていない。本研究は、短期間における腸内細菌叢の進化とその生態構造の変化との関連性を探ることを目的としている。

論文出典: 本論文の著者はStanford大学のBenjamin H. GoodとLayton B. Rosenfeldで、2023年の科学雑誌Nature Communicationsに掲載された。

研究方法: 1) 研究対象: 100人以上の健康な人からの糞便メタゲノム配列データ(Human Microbiome Projectから取得)を使用し、1人につき2-3の異なる時点のデータを含み、期間は約6ヶ月に及ぶ。

2) 解析手順: a) 各種における一塩基多型(SNV)を型付け、「株置換」(strain replacement、>100個のSNV変化)または「進化修飾」(evolutionary modification、<100個のSNV変化)のイベントが起きたかを判定。 b) 各時間ポイント間のサンプルの種組成のJensen-Shannon距離を計算し、生態構造変化の定量的指標とする。 c) 進化イベント(株置換/修飾)と生態距離との間に統計的相関があるかを検証し、寄与成分を分析。 d) 簡単な資源競争モデルを構築し、理論的にこのような生態進化フィードバックが生じるかを探る。

主な発見: 1) 種レベルでの株置換と進化修飾の発生率は大きく異なり、門レベルの違いがさらに大きい(例:肥えた菌門が偽菌門より高い)。 2) 進化修飾イベントと局所群集の種多様性には弱い正の相関があるが、その差は門レベルの違いより小さい。 3) 株置換や進化修飾が起きた群集の生態距離は、遺伝的変化がない群集よりも有意に大きい。 4) この生態距離の増加は、中心的な種の相対存在量の変化だけでは完全には説明できず、しばしば非中心的で非近縁の種の変動が関与する。 5) 単純な資源競争モデルにおいても、有利な突然変異が自身の種の相対存在量を下げ、他の種の協調的変化を引き起こす可能性がある。

研究の意義: 1) 短期的な微生物の進化が宿主の微生物群集の構造と機能に影響を与える可能性があり、個別化医療と微生物工学に新しい視点を提供する。 2) 野生の微生物群集における生態進化フィードバックを検出する新しい手法を提案し、他の複雑な微生物生態系にも適用可能。 3) 理論分析により、このフィードバック現象は単純な資源競争力学から生じる可能性があり、物質交換やファージなどの他の作用は必要ない。

革新的な点: 1) 大規模な長期データを利用し、自然の人体環境において統計的に微生物の短期進化と群集生態構造の相関性を観察した。 2) この相関は進化した種の単一の拡大/収縮に限らず、しばしば非近縁種の変動を伴うことを発見した。 3) モデリングと理論分析を通じて、単純な資源競争だけでこのような生態進化フィードバックが生じる可能性を示した。