皮質遺伝子発現アーキテクチャは健康な神経発達を自閉症と統合失調症のイメージング、転写オミクス、および遺伝学にリンクする
健康な神経発達と自閉症スペクトラム障害および統合失調症の画像、転写体、遺伝学的関連:大脳皮質における遺伝子発現パターンの研究
背景: 人間の複雑な脳の解剖学的・機能的構造はどのように20,000以上の遺伝子の発現から発達するのか?この過程は神経発達障害ではどのように進むのか?過去10年間、全脳全ゲノムの転写体プロファイル(アレン脳科学研究所のヒト脳アトラスなど)により、健常な脳の構造は多数の遺伝子の協調的発現による”転写プログラム”に依存している可能性が示唆されている。第1主成分は重要な神経発達の転写プログラムを反映している可能性があるが、高次主成分の生物学的意義はまだ明らかになっていない。
著者と掲載情報: 本研究は、リチャード・ディール、コンラッド・ウォグスター、ジェイコブ・サイドリッツらによって行われ、2024年に「Nature Neuroscience」誌に掲載された。著者らは、ケンブリッジ大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ペンシルベニア大学、マギル大学、モナシュ大学、エール大学、米国国立衛生研究所に所属している。
研究の流れ:
a) 研究者たちは、アレン脳科学研究所のヒト脳アトラスデータの処理パイプラインを最適化し、主成分分析ではなく拡散マッピング埋め込みを用いることで、3つの一般化可能な人間の皮質遺伝子発現主成分(C1、C2およびC3)を特定した。
b) C1は既知の「神経細胞層構造」に関連していたが、C2とC3はそれぞれ代謝、エピジェネティクス、免疫関連遺伝子、および、シナプス可塑性、学習、記憶関連遺伝子に富んでいた。
c) 単一細胞RNAシーケンシングや発達期遺伝子発現データとの分析から、C1-C3は細胞内で協調された転写プログラムを表し、胎児期と幼児期で異なる発達軌跡を示すことが明らかになった。
d) 画像解析、発現差異解析、ゲノムワイド関連解析データを統合したところ、自閉症スペクトラム障害はC1/C2に、統合失調症はC3に関連していた。
e) C3は白質発達と知能に関係しており、統合失調症患者では超顆粒層皮質結合異常と関連していた。
主な発見:
ヒト大脳皮質の遺伝子発現パターンには、異なる生物学的プロセスや細胞タイプの遺伝子に富む3つの独立した主成分(C1、C2、C3)が含まれる。
C1、C2、C3はそれぞれ、神経細胞層構造、代謝制御、思春期のシナプス可塑性の転写プログラムを表す。
C1とC2は胚胎期と乳児期初期に確立されるが、C3は思春期以降に発達が成熟する。
自閉症スペクトラム障害はC1/C2の異常発達に、統合失調症はC3の異常発達に関連している。
C3は思春期の脳発達を仲介し、その異常は統合失調症患者の超顆粒層皮質結合異常につながる。
意義: 本研究では、ヒト脳の転写体アーキテクチャの重要な構成要素が明らかになり、それらの脳発達と疾患発症における役割が解明された。これにより、神経発達障害の病理生理学的メカニズムの理解が深まり、早期診断や治療への新たな手掛かりが得られる可能性がある。本研究の発見は、科学的価値が高いだけでなく、これらの障害の診断や治療法の開発にもつながると期待される。