mRNA-LNPプライムブーストがプレクリニカルヒト化マウスモデルにおけるVRC01様広範囲中和抗体の前駆体を進化させる
mRNA-LNPがマウスモデルにおいてVRC01様の広範囲中和抗体を誘導および最適化
背景紹介
近年、広範囲中和抗体(bnAbs)の獲得がワクチン開発において重要視されています。特にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)ワクチンの研究開発分野でこの傾向は強いです。HIVエンベロープ糖蛋白質(Env)はウイルスが宿主細胞に侵入する際の鍵となるもので、研究においてbnAbsの標的と見なされています。患者から分離されたbnAbsはHIVに対して高い親和性を示していますが、これらの抗体の前駆体は成熟抗体と同等の高い親和性を持っているわけではありません。したがって、これらの前駆体抗体を成熟したbnAbsに進化させることはワクチン開発における大きなチャレンジです。
有望なアプローチの一つとしてgermline-targeting(GT)ワクチン接種戦略が挙げられます。この戦略では最初の接種によりbnAb前駆体抗体を活性化し、それらの前駆体抗体を発生中心(GCs)に動員して体細胞高変異(SHM)を促進させ、段階的にHIV Envに対する親和性を高めます。
研究の出典
この「mRNA-LNP Prime Boost Evokes Precursors Toward VRC01-like Broadly Neutralizing Antibodies in Preclinical Humanized Mouse Models」と題する研究論文は、2024年5月16日に《Science Immunology》誌に掲載されました。主な著者には、Xuesong Wang、Christopher A. Cottrell、Xiaozhen Huらが含まれ、彼らはRagon Institute of Massachusetts General、MIT、ハーバード大学、Scripps Research Institute、Moderna Inc.などの所属です。本文はHIV免疫原に関する人体化マウスモデルでの前臨床検証について詳細に論じています。
研究の流れ
実験設計
研究はまず、リポソームナノ粒子に包まれたヌクレオチドmRNA(mRNA-LNP)がコードする可溶性自己組織化ナノ粒子(EOD-GT8 60mer)の有効性をマウスモデルで検証しました。研究では3つの異なるVRC01前駆体B細胞受容体(BCR)を持つヒト化B細胞系譜を持つマウスを用いました。
B細胞の移植と免疫接種
- EOD-GT8 60merタンパク質とEOD-GT8 mRNA-LNPはそれぞれ高用量(10 μg)と低用量(0.6 μg)で接種されました。
- 接種後のマウスはそれぞれ14日目、42日目、72日目に分析されました。
二次免疫(Boost)
- 初回免疫接種後、第42日に3つの異なるmRNA-LNPコードのナノ粒子を用いて二次免疫を行いました。
- 初回免疫と二次免疫の各組み合わせによる発生中心への影響を評価しました。
データ解析と結果
発生中心応答
- 初回免疫接種されたマウスのリンパ節と脾臓において、EOD-GT8 60mer mRNA-LNPは強力なB細胞応答を誘発し、維持することが分かりました。GC内での抗原特異的B細胞の形成は低用量および高用量のmRNA-LNP群で類似しており、14日目にピークに達し、42日目でも顕著なレベルを維持しました。
- EOD-GT8 60mer mRNA-LNPはタンパク質免疫群に比べて記憶B細胞(MBC)の生成に優れていました。
体細胞高変異(SHM)と親和性成熟
- 単細胞シーケンスの結果、EOD-GT8 60mer mRNA-LNPは異なるB細胞系譜での多様なSHMを誘導し、第14日と第36日で顕著な変異頻度を示しました。重要なCDR領域(補体決定領域)の変異は第36日にピークに達しました。
- 親和性の測定から、mRNA-LNP免疫を通じて得られたマウス抗体のEOD-GT8抗原に対する親和性が40倍から900倍に大幅に向上し、ある程度は二次免疫抗原(G5およびG28)に対する親和性も明らかに向上しました。
二次免疫効果
- G5またはG28 mRNA-LNPを用いた二次免疫の結果、二次免疫は発生中心応答をさらに強化し、より高レベルのSHMを促進しました。特に、clk19およびclk09系譜の抗体は成熟したVRC01に似た変異を示し、重要な残基変異を含んでいました。
- 二次免疫直後、抗体の全体的な親和性がさらに向上し、特にN276糖鎖化部位を含む抗原に対して顕著な親和性の向上が見られました。
重要な発見と価値
多系譜誘導
- mRNA-LNPは同一宿主内で同時に複数の前駆体系譜の初期免疫応答を誘導し、二次免疫段階でこれらの系譜をさらに進化させることができ、多系譜免疫誘導の可能性を示しました。
体細胞高変異と親和性成熟
- 研究は、mRNA-LNP免疫によって多様な体細胞高変異を効果的に誘導し、初期抗原および二次抗原に対する抗体の親和性を徐々に高めることができると验证しました。これにより後続のワクチン開発の道が開かれました。
二次免疫の重要性
- 二次免疫戦略は免疫応答を顕著に強化し、特に高保守部位(N276)の抗体親和性を高めることで、抗体の広範囲中和能力を向上させました。
見通し
本研究はHIVワクチン開発の前臨床段階で重要な進展を遂げ、mRNA-LNP免疫の有効性と多系譜誘導の可能性を証明しました。これにより将来の臨床試験に向けた堅実な科学的基盤を提供します。また、本研究で採用されたmRNA-LNP免疫戦略は、他の感染症ワクチンの開発にも新しい視点と技術的支持を提供します。
結論
本文は包括的かつ詳細な実験設計により、mRNA-LNPが前臨床マウスモデルにおいて広範囲中和抗体を誘導し、最適化する可能性を検証しました。本研究は多系譜免疫誘導の可行性を示すと共に、親和性成熟における二次免疫の重要な役割を明らかにしました。将来的に、本研究はHIVワクチンおよび他の感染症ワクチンの開発に重要な参考資料を提供することが期待されます。