合成細胞回路を使用したMHCクラスIおよびクラスII制限T細胞エピトープのハイスループット発見

高スループットでMHC I類およびII類制限T細胞エピトープを発見する新しい合成細胞回路

研究背景及び問題

近年、抗原発見技術は顕著な進展を遂げ、とりわけヒトT細胞受容体(TCRs)が主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Complex, MHC)I類制限性認識において応用されています。しかし、MHC II類制限とマウスTCR活性に関する研究や技術は相対的に遅れています。この限界により、癌、感染症、自己免疫疾患などの多様な免疫関連疾患の治療と研究が妨げられています。本記事では、この研究の空白を埋めるために新しいTCR抗原発見手法、すなわち抗原ペプチドのTCRマッピング(TCR mapping of Antigenic Peptides, TCR-MAP)を報告します。

論文の出典

この論文は、Ayano C. Kohlgruber、Mohammad H. Dezfulian、Brandon M. Sie、Charlotte I. Wang、Tomasz Kula、Uri Laserson、H. Benjamin Larman、およびStephen J. Elledgeなどの学者によって共同執筆されています。研究に参加した機関には、Brigham and Women’s Hospital、Harvard Medical School、Boston Children’s Hospital、Massachusetts General Hospital、Icahn School of Medicine at Mount Sinai、Johns Hopkins School of Medicineなどが含まれます。論文は2023年11月5日に受理され、2024年4月16日に公開され、Nature Biotechnologyに掲載されました。

研究方法及びプロセス

方法概説

TCR-MAPは合成TCR刺激回路を用いて免疫細胞のエクスターナルタグを活性化する方法です。具体的には、永生化Jurkat T細胞で合成回路を使用し、Sortaseを介して抗原提示細胞(APCs)をタグ化します。タグ付きの活きたAPCsは直接精製され、シーケンシングによってデコードされます。この方法により、極めて高いスループットと感度でMHC I類及びII類制限TCRの自己反応またはウイルス反応を調査することができます。

詳細プロセス

  1. Jurkat細胞の改変:まず、Jurkat細胞を遺伝子改変し、合成回路を表現させます。この回路にはmCD40L-Srtaが含まれ、TCR活性化後に表現されcognate APCsをタグ化します。

  2. ターゲットAPCsの改変:ターゲットAPCsはペプチドとMHC分子を標的として表現するようにトランスダクションされ、これらのペプチドがTCRに認識されると、タグはAPCs表面に転送されます。

  3. 実験検証

    • まず、ヒト巨細胞ウイルス(CMV)由来のペプチドを用いて試験を行い、この方法が特異的なペプチドを識別しタグ化できることを示しました。
    • さらに、癌・睾丸関連抗原1b(CTAG1B/NY-ESO-1)を用いる実験では、癌ペプチドを検出する際の高い特異性と感度が示されました。
    • 同様に、マウスモデルで既知のOT-I TCR-SIINFEKLエピトープを使用してシステムを検証し、このシステムがマウスにも適用可能であることを確認しました。

アルゴリズム及びデータ分析

研究では、複雑な計算モデルとデータ分析アルゴリズムが使用され、フローサイトメトリーとバイオインフォマティクス分析も行われ、抗原のタグ反応を精密に測定しました。また、自社開発のソフトウェアを用いてデータ処理を行い、結果の正確性と再現性を保証しました。

主な結果

  1. TCR-MHC相互作用の効果的な捕捉:TCR-MAPはMHC I類およびII類分子とTCRの特異的相互作用を効果的に捕捉し、細胞表面タグの方法でその感度と特異性が検証されました。

  2. 自己反応およびウイルス反応の高スループット検出:このシステムは高スループットかつ高感度で自己反応またはウイルス反応を検出することができ、癌、感染症、自己免疫病の抗原発見に適しています。

  3. 多様な反応ライブラリーのマッピング:ヒト、ウイルス、マウスなど複数のタンパク質ライブラリーを含む実験において、TCR-MAPは複雑な抗原環境における効率的な抗原マッピング能力を示しました。

  4. 高感度検出と将来の展望:実験結果は、TCR-MAPが低親和性および高親和性抗原の処理において感度を示し、将来の多様なTCRクローン型ライブラリーへの応用の可能性を提供します。さらに、このシステムは非ペプチド抗原、例えば脂質や代謝物の捕捉にも潜在的な能力を示しました。

結論及び意義

科学的価値

この研究で開発されたTCR-MAP方法は、科学界に高効率、柔軟、かつ感度の高い新たな手法を提供し、高スループットでTCR特異的抗原を解析できます。これは、既存の方法の多くの限界を克服し、一次T細胞の依存やターゲット細胞の破壊が不要です。

応用価値

TCR-MAPの広範な応用潜力としては、癌、感染症、自己免疫病の抗原発見と治療が含まれ、とりわけ自己免疫病や腫瘍治療において重大な価値があります。

研究のハイライト

  • 柔軟性および特異性:この方法は、人間やマウスなどのモデルを含む多様な経路に適用可能であり、MHC I類およびII類制限性のTCRに適用できます。
  • 高スループットおよび感度:効率的な抗原発見とタグ化を実現し、検出の感度と特異性を向上させました。
  • 種跨ぎの利用可能性:この研究は、複数の種においてTCR-MAPが効果的に応用できることを示し、基礎研究と応用研究の促進につながります。

TCR-MAPは革新的で柔軟かつ高効率な抗原発見手法を提供し、免疫学研究、臨床応用、および他の関連分野において顕著な突破口をもたらすでしょう。