TH17細胞固有のグルタチオン/ミトコンドリアIL-22軸が腸の炎症を防ぐ

TH17細胞内在のグルタチオン/ミトコンドリア-IL-22軸による腸炎症の保護メカニズム

背景紹介

腸内では多量の活性酸素(ROS)が産生されており、腸の恒常性維持におけるT細胞抗酸化メカニズムの役割は未だ不明である。本論文では、特異的にグルタミン酸システイン合成酵素(GCLC)を欠失させたT細胞がグルタチオン(GSH)合成に与える影響を研究し、TH17細胞が産生するIL-22が腸の保護においていかに重要であるかを探討した。恒常状態下では、GCLC欠乏は細胞因子の分泌を変えない。しかし、病原菌Citrobacter rodentiumに感染したマウスでは、ROSが増加しミトコンドリアの機能とTFAMが駆動するミトコンドリア遺伝子発現を破壊し、細胞ATPが減少、PI3K/AKT/mTOR経路を抑制し、IL-22の翻訳を減少させた。低レベルのIL-22は、細菌の除去が不十分で、重篤な腸傷害と高い致死率をもたらした。これらの発見は、TH17細胞内のGSHが、ミトコンドリア機能と細胞内シグナル伝達を促進する重要な役割を持ち、腸の完全性と腸感染の防御に至関であることを示している。

出典紹介

この論文はLynn Bonetti, Veronika Horkova, Melanie Grusdatら複数の著者によって共同執筆されている。所属機関は、ルクセンブルク健康研究所感染免疫科、ルクセンブルク大学システム生物医学センター、チューリッヒ大学実験免疫学研究所、イエール大学公衆衛生学部などである。論文は《Cell Metabolism》誌の2024年8月6日号に掲載され、インパクトファクター(IF)は36である。

研究プロセスの詳細

1. 研究プロセス:

a) 実験モデルと処理:特異的にGCLC遺伝子を削除したマウスモデル(cd4cre-gclcfl/fl)を使用して、グルタチオンが腸炎症に与える影響を研究。Citrobacter rodentium感染を通じて腸炎症状を誘導し、マウスを感染群と非感染群に分け、実験期間は感染後7日目と12日目である。

b) 細胞と分子の解析: - 抗酸化反応:フローサイトメトリー(FCA)を用いて、感染後のマウス腸上皮細胞(Lamina Propria)のCD4+ T細胞内のチオールレベルを分析し、細胞内グルタチオン(GSH)の増加を検出。 - ミトコンドリア機能:ミトコンドリア内ROSレベルとATP生成への影響を評価し、酸素消費率(OCR)を使用してミトコンドリア活性を測定し、ROSがミトコンドリア発電鎖(ETC)関連遺伝子発現に与える影響を観察し分析。

c) 細胞因子の解析:異なる群のマウス腸内CD4+ T細胞のIL-17とIL-22の発現をそれぞれ検出し、特に感染条件下でのこれらの細胞因子の変化に注目。

d) 抗酸化剤処理:抗酸化剤NAC(N-アセチルシステイン)を飲用水として投与し、これがGCLC欠乏マウスのミトコンドリア機能およびIL-22生成における作用を評価。

e) 細胞分化実験:体外でのTH17細胞分化を通じ、GSHの影響を受けたIL-17とIL-22の生成メカニズムを検証。

f) 遺伝子発現回復実験:IL-22またはIL-17発現を促進するトランスジェニックマウスモデルを使用して、腸感染におけるTH17細胞に対するGCLC欠如の影響を詳しく探明。

2. 研究結果:

a) 抗酸化反応と死亡率の関係:フローサイトメトリーのデータは、感染後にT細胞のGSHレベルが増加し、同時にROSは低レベルを維持したことを示している。GCLC欠如はROS緩衝能力の低下をもたらし、感染マウスにおける死亡率と腸傷害の増加をもたらした。

b) 細菌除去とIL-22の役割:GCLC欠如はIL-22生成の減少を招き、細菌の除去が不十分となった。NACを与えることで、GCLC欠乏マウスのROSレベルとミトコンドリア機能を効果的に回復させ、IL-22生成を維持できた。

c) 腸傷害と保護メカニズム: - 腸構造の損傷:GCLC欠如マウスは感染後、腸に顕著な潰瘍と短縮が見られ、腺窩の喪失と上皮細胞の壊死が重篤であった。 - 回復メカニズム:抗酸化剤NACおよびリコンビナントIL-22処理はいずれもGCLC欠乏マウスの腸構造を効果的に回復させ、IL-22が腸の完全性維持において重要な役割を持つことを証明した。

d) 遺伝子発現の調節およびメカニズム:RNAシーケンスは、GCLC欠如がPI3K/AKT/mTOR経路活性の低下を引き起こし、ミトコンドリア遺伝子TFAMの発現に影響を与え、ATPレベルを減少させ、最終的にIL-22のタンパク質翻訳を抑制し、そのmRNA転写を抑制しないことを示した。

e) 臨床関連性研究:人間のIBD患者サンプル分析により、GCLC発現が腸の完全性関連遺伝子の発現、特にIL-22とClaudin(タイトジャンクションタンパク)の発現と正関連を持つことが証明された。

研究結論と重要性

本研究は、TH17細胞内在のGSH/ミトコンドリア-IL-22軸が細菌感染から腸を守る上での重要な役割を明らかにし、ROSの調節がミトコンドリア機能とIL-22タンパク質翻訳にどのように関連するかを発見した。これは、腸炎症におけるT細胞抗酸化メカニズムの理解に新しい見解を提供するとともに、IBD治療の新戦略の探求における理論的基盤を提供し、抗酸化剤の使用を調節することでTH17細胞の機能を改善し、腸の完全性を保護する可能性を示唆している。また、ミトコンドリアの精密な調節メカニズムが、他の細胞機能や疾患において重要な役割を果たす可能性があり、さらに探求する価値があることを示している。

研究ハイライト

  1. 革新的な発見:研究は初めてTH17細胞内のグルタチオン(GSH)が、ミトコンドリアROSレベルを調節してIL-22タンパク生成に影響を与え、腸の完全性を保護する機構を明らかにした。
  2. 系統的な実験設計:マウスモデルから体外細胞実験および臨床サンプル分析に至るまで、研究は完備した科学的方法論体制を確立した。
  3. 臨床関連性:人間のIBDサンプルの遺伝子分析を通じ、GCLCと腸の完全性関連遺伝子発現の関連性を検証し、研究結果の臨床応用価値を支持した。

この研究は、免疫系における抗酸化メカニズムの複雑性と、健康と疾患状態におけるその重要性を示しており、今後のIBD研究と治療に関する豊富な資料と新たな視点を提供した。