キメラ抗原受容体T細胞受容者における胃腸感染症および胃腸出血は過小評価されているが深刻な副作用である: 実世界の研究

CAR-T細胞受者における消化管感染と消化管出血は過小評価されがちだが重篤な有害事象である:実世界研究

序論

近年、キメラ抗原受容体T細胞(Chimeric Antigen Receptor T-cell, CAR-T)治療は血液腫瘍患者の治療において持続的な効果を示している。しかし、CAR-T療法に伴う多系統の毒性反応が報告されており、その中でも消化管有害事象(Gastrointestinal Adverse Events, GAEs)が特に顕著である。これまでの臨床試験や実世界研究では、悪心、下痢、嘔吐、便秘など比較的一般的なGAEsが報告されているが、限定された選択基準や選ばれた集団が原因で、一部の稀だが重篤な毒性が過小評価されている可能性がある。CAR-T療法を受ける患者の治療をより良く管理し、重篤な毒性リスクを低減するためには、CAR-T関連GAEsの体系的な安全性評価が必要である。

研究背景と出所

本文の著者には、Zhiqiang Song、Yang Wang、Ping Liu、Yuke Geng、Na Liu、Jie Chen、Jianmin Yang などが含まれ、中国上海第二軍医大学長海医院の血液学研究所に所属している。記事は2024年3月28日に《Cancer Gene Therapy》誌に「(Chimeric Antigen Receptor T-cell recipients: a real-world study)」のタイトルで掲載された。

研究目的と方法

データの出所と研究デザイン

本研究では、米国食品医薬品局の薬物有害事象報告システム(FDA Adverse Event Reporting System, FAERS)から2017年1月から2021年12月までの報告データを抽出し、CAR-T関連GAEsの回顧的な後市販有害事象分析を行った。CAR-T関連の商標名や一般名を含む報告を選び、最終的に105,087,611件の報告の中から1,518件のCAR-T関連GAEs報告を確認した。全てのデータセットはFDAのウェブサイトhttps://www.fda.gov/regulatory-information/freedom-information からアクセス可能である。

統計分析

報告比率比(Reporting Odds Ratio, ROR)と情報コンポーネント(Information Component, IC)などの異なる比率分析方法を用いて、全てのCAR-T製品でのGAEsを検出。統計的収縮変換を処理し、相対的な統計公式を使用して更なる分析を行った。薬物関連AEの記録が3例以上の場合、信号検出を行い、信号のROR 95%信頼区間の下限(ROR025)が1を超えるか、IC 95%信頼区間下限(IC025)が0を超えた場合には、有意な信号と見なした。死亡率の計算は報告された死亡事象数と該当GAEs総数の比率に基づき、統計分析はSASやRソフトウェアを使用して行った。

研究結果

記述的分析

2017年から2021年の間に、FAERSデータベースで1,518件のCAR-T関連GAEs報告が確認された。そのうち58.83%(n=893)がtisagenlecleucelに関連し、37.02%(n=562)がaxi-celに、1.65%(n=25)がliso-celに、2.50%(n=38)がkte-x19に関連していた。CAR-T受者のGAEs報告は時間とともに増加し、2020年の報告件数(n=471)がピークに達したが、2021年には若干減少した。これらの報告の大多数はアメリカから(n=1154, 76.02%)されており、CAR-T受者のGAEs関連死亡率は35.57%であった。

CAR-T関連GAEs

《(Medical Dictionary for Regulatory Activities, MedDRA)》バージョン24.0の優先用語(Preferred Terms, PTs)に基づき、91のCAR-T療法関連GAEsが確認された。1,518件のGAE報告のうち、23のGAEsは過報告信号が高く、そのうち11のGAEs(156例, 10.28%)は消化管感染(Gastrointestinal infections, GI)に関連し、例えばClostridium difficile腸炎(n=44, 2.90%, ROR=5.55)、腸ウイルス感染(n=23, 1.52%, ROR=20.02)、真菌による麹菌症(n=15, 0.99%, ROR=3.09)などが含まれた。GI関連有害事象の全体致死率は29.49%で、特に黴菌症による死亡率は60%に達した。さらに、過報告された4つのGAEsは出血(Haemorrhage)に関係し、消化管出血の死亡率は73.17%であった。

異なるCAR-T製品間のGAEsの違い

具体的な分析では、異なるCAR-T製品間で顕著な差異が確認された。例えば、axi-celは悪心、下痢、嚥下困難、腹痛などのGAEsのリスクが高い。また、CAR-T細胞輸注後10日以内に多くのGAEsがピークに達することが多かった。高いリスクは、癌細胞負荷が高いか、以前の治療過程が多い患者群により一般的であった。

致死的GAEsの特徴

研究では最も死亡報告の多いトップ10のGAEsに焦点を当て、CRS(サイトカイン放出症候群)とGAEsの関連性を探討した。低CRSはCAR-T関連GAEsのリスクを低減し、関連死亡率を減少させる可能性があることが判明した。高腫瘍負荷や移植前準備患者に対する重篤なGAEsの早期予防が特に重要である。

安全性分析

安全性分析は、CAR-T細胞の投与量を0.2×10^6から5×10^6細胞/kgに保つことでGAEsの死亡リスクを効果的に低減できることを示しており、FDAが承認している投与量と一致している。

結論と意義

本研究は、実世界でのCAR-T関連GAEsを初めて体系的に明らかにした。CD19ターゲットCAR-T療法による様々な消化管毒性反応は過小評価されている一方、CAR-T受者にとって深刻な問題を引き起こしている。実世界の実情に基づいたGAEsの全体像を深く理解することで、治療選択をより適切に指導し、この革新的な療法の管理を改善できる。今後、CAR-T療法の適用が増加する中で、これらの研究結果は臨床医がこれらの稀だが致命的なGAEsを早期に警戒し、重篤な毒性リスクを軽減するのに役立つ。